毎日読書#259 『ヒトの目、驚異の進化』(マーク・チャンギージー)
科学読み物が好きなら是非手に取ってみてください。
人間の視覚についての4つの「超人的な能力」について紹介されているのだけど、著者の繰り出す何故? なぜ? ナゼ? を追いかけていくうち、私たちが目にしているものは何か? 人間とはなにか? と、謎と理解が深まる超名著です。
ただ、超人的とか言われちゃうと、急に怪しい気持ちになるし、目次を見るとさらに怪しい章立てが並ぶ。
第1章 感情を読むテレパシーの力
第2章 透視する力
第3章 未来を予見する力
第4章 霊読(スピリット・リーディング)する力
しかし、怪しいスピリチュアル本ではないよ。
本書は大まじめなエビデンスをベースに、これまでの定説・常識を大胆にアップデートする考察を披露した、人間の視覚に関する認知科学の本だ。
第一章では、人間が色を知覚する能力を得たのは何故なのか? を考察している。霊長類では、雌しか色を知覚しない種があるなか、人間はなぜ色覚をこのように発展させてきたのか? 以前までは森の中の生活で、食べ物を効率的に探す為という説が有力だったし、私もそう信じていた。でも、それでは説明できない事も多かった。本書では、その答えとして、色を認識するのは、相手の感情を読む為に発達したのではないか、という説を披露していて、その根拠を説明する。
第2章は目の取り付け位置について。これまで、人間の目が前方に二つあるのは、立体視をするためだと説明されてきた。しかし、その説明だけでは、左右に目をつけ、後方まで視界を広げた他の動物との決定的な差別化とはならないようなのだ。それに、人間は片目でも十分に立体を知覚できる。例えばゲームでは、平面に表示されたディスプレイに、一人称の視点でゲーム画面が表示されるが、多くの人は何の問題もなく遠近感を理解しながらプレイしている。では、なぜ人間の両目は今の位置におちついたのか? それは透視をするためだという。
第3章は、人間が見ているのは本当に現在なのか? 人間が目で光をうけ、それを脳が「視た」と知覚するまで、0.1秒のタイムラグが発生するという。つまに、私たちが知覚しているのは常に過去の情報となる。なのに、なぜ飛んでくるボールを受け取る事が出来るのか。車の運転が出来るのか? F1ドライバーが時速300キロで走っているとき、目に入ってから知覚するまでに8メートルも進んでいる事になるのに、何故カーブを曲がったり、他の車を追い越したりできるのだろうか。それは、人間が現在を正しく知覚するために、未来を先取りしているからで、このことによって、人間の錯視も体系的に分類し、説明をすることが出来るようになる。
第4章では、私たちが読字、つまり、文字を読むという超人的な能力を持つのは何故なのか? を考えている。突然シュメール人の時代に人間が進化し、文字が使えるようになったのか? 人間の目が文字を読めるように進化したのか? そうではなく、文字が人間の目に合うように進化したから広く使われるようになったという。文字は、人間が自然界を見る為の図形認識能力を元に文字をつくってきたのであり、実は、人類の使う数多ある文字はすべて同じシンボルの組み合わせで出来ているという。読みながら「漢字どうやねん」と突っ込むのだけど、それも見事に説明されちゃってビックリ。
ほら、気になるでしょ?
エキサイティングです。おススメ!