映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」感想

 ストーリーやテーマは好みだったんですが、私はグロ耐性がないので絵面的にしんどい場面が結構ありました。

 まあ、そこはそういう映画なので仕方ないのですが、汚れた大人たちがああいう末路を迎えたのは因果応報だとしても、沙代ちゃんや時弥くんは少し可哀想すぎないかな……と。
 特に沙代ちゃんの死は「水木が彼女を利用しようとしていたせいで起きた悲劇」として描写されていたのはわかるのですが、レイプ被害者の最期があれというのはちょっと胸糞悪すぎないかなあ……と感じます。
(一応、二人とも現代パートで救われた描写はありましたが、それを加味しても後味の悪さが拭えない……)

 ……と、否定から入ってしまいましたが、鑑賞後の満足度はかなり高いです。
 戦争の影響で弱肉強食思想に取り憑かれていた水木が、徐々に人間らしさを取り戻していき、最終的には時貞のドラクエの竜王みたいな誘いを一蹴するまでに変化したのはとても良かったですし、「人間の悪意のほうが妖怪よりもずっと恐ろしい」という描写もグッド。

 それから、個人的に興味深いと思ったのは、血液製剤「M」に関する描写です。
 本作では戦後日本は幽霊族の犠牲によって生み出されたこの薬によって復興したという設定になっているわけですが、幽霊族の恨みによって誕生した狂骨によって日本が滅びそうになった時、水木は「ツケは払うべきだ」的なことを言って(台詞うろ覚えですみません)投げやり気味に放置しようとしていました。
 これ、「(多くの人々が犠牲となった)朝鮮戦争の特需によって復興した戦後日本」を、暗に批難する描写ではないかと私は思うんです。
 あと、水木しげる先生は「効かない薬を作るのが我々の崇高な使命なんだ。いやむしろ薬を飲むことによって副作用で病気が増える……といったようなことが我々の産業発展のために必要なことなのだよ」と、いわゆる「製薬利権」を漫画で批判されていたお方なので、本作のスタッフはその辺も意識していたのかもしれません。

 そして、「これはあくまで過去の話である」という体で終わらせるのではなく、目玉おやじが水木や時弥くんと語っていた「明るい未来」は未だ訪れていない、と本人の口からハッキリ言わせたことも好印象でした。
 実際、戦争も貧困も病気もなくなっていないですし、貧困問題に関しては当時より酷くなっているくらいですからね……。

 最後に、私が本作を鑑賞した劇場には高校生くらいの若者が多かったのですが、こういう社会派的要素を強く持った映画をそうした世代が観に来ているというのは、良い兆候なのではないかと思います。
(本作のテーマが彼らにどの程度伝わっていたのかは私にはわかりませんが……)

 ではまた。

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