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五条天神宮〜日本最古の宝船図考4(ウツホとユキについて②)
1月10日の十日戎当日の午前6時、全国のえびす宮の総本社・西宮神社において福男開門神事が行われましたね。
門から本殿までの約230メートルを抽選で選ばれた100人もの人が「一番福」を目指して走り参るという神事。
2025年は地元兵庫県在住の男子高校生が福男(つまり1番!)となりました。
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えびすと言ったら、伊弉諾・伊弉冉が最初に産んだ神・ヒルコとして知られていますが、五条天神宮の御祭神・少彦名もまた、えびす神と呼ばれることがあります。
共通点は…船に乗って、どんぶらこどんぶらこ(漂着神)。
ヒルコはその名の通り、蛭のような体で生まれて、3歳になるまで立てなかったために、船に乗せられ海に流されました。
少彦名はというと。五条天神宮〜日本最古の宝船図考1(カガミについて①)でも書きましたが、神産巣日の子(ただし、日本書紀では高御産巣の子)とされています。親神の手からこぼれ落ち、小さな船に乗り、波の穂(波の飛沫・泡)に揺らされ、大国主のもとにやってきたのでした。
ご存知「大」国主と「少」彦名の名コンビとして国造りに励んでいたのですが、ある日、粟島で粟の茎に登っていたところ、ビヨーンと弾かれて唐突に常世へと渡っていったのです。
少彦名。最初から最後まで、穂や粟(泡)のイメージに事欠きません。そしてご存知の通り、極小の神さん。お酒や薬、温泉、穀物、まじない、石の神としても知られます。
(古代日本人の考えでは生命の種は東方から)渡って来て男性の中に蓄えられる。きわめて「小さい男」の名称を負う少彦名神は、種神・生命の源・精虫の象徴であって、その神格化ではなかったろうか。
種神・少彦名神は常世からカガミという蛇の船に乗ってこの現世に顕現し、国津神・大国主神に宿る。その結果、大国主は男としての活気に溢れて国土経営に当たるが、この少彦が常世に帰ると同時に生気を失って見る影もなく衰えた、というのが神話の狙いであろう。
古代日本人によって、すでに生命の源は、精液中の微小な虫として捉えられていたに相違なく、少彦名神は大国主の掌中に弄ばれているうちに、いきなりとび出して大国主の頬に喰らいついたとか、高皇産霊神の指の間から漏れ落ちたとか、その去るに当たっては男根状の栗の穂先から味かれて常世に渡ったというが、それらの表現は暗然のうちに種神・精虫の神格化としての少彦名神の本質を物語っているとしか思われない。
そうなんです。少彦名は精子の象徴。米偏の漢字やくだんの伝説からも"種神"であることが本義として読み取れます。
さて、冒頭の西宮神社の福男開門神事に戻りますと…えびすと少彦名が同体であるなら、これはまごうことなく、受精を意味していることになります(これに限らず、日本には受精を連想させる火祭り等が少なくありませんが)。
そしてこの、マルチョン。
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山口志道の言霊<コトタマ>論によると、これは、天之御中主を表し、「○」は水であり大地であり、母なる神産巣日、「、」は火であり気(氣)であり種子であり、父なる高御産巣を示します。天之御中主が両性の息吹でもって現れる命とするならば、その最初の父の一滴、それこそが少彦名という神の根源的な役割であり、意味なのですね。
ここで前回の五条天神宮〜日本最古の宝船図考3(ユキとウツホ①)に戻りますと、靭=ウツホ=カガミ=船=○ということになりますが、政情が不安定であったり病に侵されている状況の際「靭」をかけるというのは、中世の日本人が、何らかの理由で安定を欠いて剥き出しになった気(氣)を、母なる「○」で安定させようと考えたためではないでしょうか。
こうした古い風習も含めてコトタマ的に解釈すると、この日本最古の宝船図は、男と女が交わって新たな生命が生まれる、という、生命の根源的で調和的な状態を願った祈りの図符であり、古来の宝船図に通底するメッセージなのではないか、とわたくし千場は推察しているのであります。
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