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綿帽子 第五十話

叔母は相変わらず首を縦に振ろうとはしなかったが、従兄妹たちの家の近くには住まないという条件で、京都で家を探すことにした。

ある程度目ぼしい物件は見つかったので、行く日を定めてネットでホテルの予約も取り終えた。
新幹線の切符は当日買えば良いだろう、ようやく休むことができる。

近々の予約なので体調面に不安はあるが、二日ほど休めば何とかなるのではないか?

自分を騙して回復を待った。

ところがだ。

やはり退院後からの無理が祟っていたのか、翌日になってから急転直下の絶不調に陥った。

慌てて朝一番で病院に行く。
行ったところでもう自分でも訳の分からん体調の悪さで説明のしようがないのだが、行かないよりは行ったほうが良い。

感染症科の受付を済ませて待合室で待つ。

名前を呼ばれて診察室に入ると、今日は幸いなことに主治医ではなく、入院中担当してくれていた感染症科の部長先生だった。

診察を受け「特に異常はない」と言われるが、状態が状態なので無理はしないほうが良いと言われる。

どうしても遠出しなくてはならないと伝えると、それは止めた方が良いと言われる。

納得して家には帰ったが、行かなければ家が無い。

何事も上手く進まない時は、とことん進まなくなる。

思考力の衰えた頭で一生懸命考えようとするが、考えれば考えるほど頭がボーッとするだけで何のアイデアも出てこない。

あまりにも何も思いつかないので、お袋に医者のアドバイスをそのまま伝えてみることにした。

「お袋、先生が行かない方がいいって言うんだ、それどころか調子が悪ければ明日も来なさいって」

「そうか、分かった。ほな、私らで行ってくるからお前家におり」

「いや、こういう時こそ叔父さんに頼んで息子に一緒に来てもらったらどうなんだ?」

「私らだけで大丈夫やて、そんなこと○〇に頼めるはずがないやろ?大丈夫やて」

「いや、物件見るだけじゃなくて契約しなきゃならないんだぞ、できるのか?」

「馬鹿にしよってからに、できるに決まってるやろ」

「いや、そういうことじゃない、契約内容を良く見てからサインをしないと後々困る事になるからだ」

「〇〇の手は煩わせたくない、震災の時もすごく心配してお世話になったのお前も覚えているだろう?それはダメだ」

お袋、その歪んだ認識は直した方が良いと言いたかったが、ダメなのだ。
お袋は兎角自分の兄弟のこととなると究極に美化したがる。
ここでお袋にそれを告げて、身体に悪い怒鳴り合いはしたくない。

それぐらい今日の俺は体調が悪い。

「とにかく〇〇には頼めない、私らだけで行ってくるからお前は家おれ」

「分かった、それなら不動産屋で内容確認の電話を必ずしろよ。自分達で勝手に決めるような真似するなよ?必ずその場で電話して不動産屋にも代わってもらえよ」

「分かったから、ちゃんとするから」

「そうか、じゃあ任せたから」

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