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綿帽子 第五十一話

「今ホテルに着いたわ、これから叔母さんと不動産屋に行ってくる。向こうでまた連絡するしな」

「ああ、気をつけてな」

さて、どうなる事か。
任せた以上は待つしかない。
頭の中は不安でいっぱいだ。

少しベッドで休む。

休むと言っても寝られるわけではない。
寝転んで、本当に体を休ませるだけだ。
熟睡なんてもう何年もしたことがない。

この前ぐっすりと眠れたのは、いつのことだったろう?
眠らなければ身も心も休むことはできない。
免疫力も弱まり、体調を崩す原因になったりする。

今回はそれが積み重なっていた。

やはり眠れそうにない。

俺は階段を降りて居間のソファーに腰掛けた、ここで電話を待とう。

小一時間ほど待った。
携帯が鳴る。

「もしもし」

「ああ、どうだ?何個か見てきた?」

「ああ、もう見てきた。今もう契約したとこや」

「ええー!」

「ちょと待って、それ俺が何にも内容知らないのに契約しちゃダメだって言ったろ」

「叔母さんも見てこれが良いって言うから」

「いや、そういうことじゃない。とにかく不動産屋に代わってくれ」

「分かった」

お袋は息子が心配して代われって言ってますとか何とか言っている。

そんなことではない、値段も部屋の広さも場所も契約時に必要な経費も全て何も分かっていない。

担当者が電話口に出る。

「御子息様でいらっしゃいますか?」

「はい」

「お気に入りになられたようなので契約を進めさせてもらっています」

「はい?」

契約内容を聞いてみた。
聞いたところで分かりはしない。
一応把握はしたので一旦は電話を切る。

「落ち着いて考えてみよう」

そう思った矢先に再度携帯が鳴る。
7年契約で7万だとか8万とか言っている。

一体何の事だ?

再度担当者に代わるようにと促した。

契約時の保証料が7年だと安くなってそのお値段になってお得だとか意味不明なことを言っているぞ。
何の保証かさっぱりな上に最初に必要な経費には含まれていないはず。

担当者からお袋に代わる。

どう考えたってその話はおかしい。
叔母さんが一緒に居て、二人で考えてそれなのかと問い詰めたいが、お袋を責めるのは無理がある。

説明してもその場では中々理解できないみたいなので、とにかく最短年数で契約するようにと促した。

3LDKで10万を少し越える家賃。

高いとまで言わないが決して安くはない。
このまま何も仕事ができない状態ではいつまで持つか分からない。

「神様の試練て、キツいな」

とつくづく実感する。

「悪いことが続けば、その後必ず良いことがある」

世の予言者的な方々は大体そう言って心を和ませてはくれる。

だが、何をどうゆう風に捉えて良いと考えるのだろうか?

崖っぷちから崖っぷちへと見事な下り坂を延々と何十年も続けている俺にとっては、もう何をもって奇跡なのか、何を持って幸せなのか、そんな判断さえつかなくなっているのだ。

俺は改めて途方に暮れた。

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