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綿帽子 第六十一話
釣具買取の業者が来宅した。
親父の釣具の査定をしてもらって、折り合いがついたら買い取ってもらうつもりだ。
お袋は捨ててしまえと相変わらず言っていたが、諦め半分だが業者を呼んでみた。
結構な数のフライロッドにルアーロッド、フライ、ルアー用のリールにフライタイイングに使う鳥の羽類、その他フライにルアーのアクセサリー類がある。
久しぶりに親父の匂いがする釣具をオーディオルームにずらりと並べた。
業者の人が一本一本手に取っては査定して行く。
何やら色々と説明してくれているが、こちらは釣りの知識は皆無に等しく、ロッドに関する蘊蓄を語られてもさっぱりなのだ。
おそらく買値を言われてもピンとこずに納得してしまうのだろう。
結構な時間をかけて見てくれている。
一通り見終わったら声をかけてくれるそうだ。
フライタイイング用の羽類をかなり凝視しているので、もしかしたら良い値段で買い取ってくれるかもと期待する。
ずっと動き通しでかなり疲労が溜まっていた。
終わったら声を掛けると言われても、この場を離れるわけにもいかず、ずっと立っている。
「終わりました。えーと、うちで買い取れるのはこれとこれ以外は全部買い取ることができます。これがお値段です」
と、一本ずつロッドを手に取り丁寧に説明してくれる。
それから「総額でこのお値段になります」と提示された金額を見て俺は驚いた。
二桁台の金額を見せられて、嬉しいやら悲しいやら複雑な感情が一気に押し寄せる。
これをゴミに出す気だったの?頭の中がはてなマークで一杯になった。
全部が使用済みとはいえ、海外でも希少なメーカーの物も取り寄せていたらしく、中でも一本だけバンブーロッドが混ざっていたのは印象的だった。
断面が六角形をしている。
だからといってそれが特別高価な品だったわけではない。
親父の趣味の良さが亡くなった後も俺とお袋の助けになったのだ。
俺は逸る気持ちを抑えながら、他に売れそうな物についても聞いてみた。
さっきから業者の人が凝視するようにじっと見ていた、フライタイイング用の鳥の羽類が気になって仕方なかったのだ。
表に購入した当時の値段が書いてある。
1万円を超えるものがかなりの数ある。
果たしてなんと答えが返ってくるのだろうか?
「あの、この大量にあるフライタイイング用の羽類は値段付かないのですか?当時のお値段が書いてあるのですが」
「うーん、正直言ってうちで買い取ることはできませんが、此方にあるアクセサリー類と一緒で見積もることはできます。リール類はもう先ほどのお値段にこれぐらい上乗せした感じになります」
うーん、リールは古いから仕方がないか。
だけど羽類はなんかおかしくないか?
いくら古いものとはいえ中は真空になっているはずだし、外気に触れていなければ傷んでる可能性も低い。
「なんか怪しいな?」
そう思ったが、まあ提示される値段を聞いてみよう。
「そうですね、うちとして出せるとすればこれぐらいですかね」
「うん?この値段、これは一体?」
大量にある鳥の羽。
中にはかなり分厚くてしっかりとしたものもある。
外側のふさふさした部分を使うのだろうけど、包装の外から見ている限りは、全く傷んでいるようにも見えない。
カラーボックスの一段分に目一杯詰まっているのに、それが全部でたったのこれだけなのか?
「あの、幾ら何でもこの値段は安くないですか?」
「うーん、もう少し頑張らせてもらってもこれくらいですかね」
再度提示された値段を確認する。
先程提示された値段より僅かに上乗せされただけだ。
これには流石に不信感が募って行く。
それに、かなり時間をかけて見ていた割には、フライロッドのような説明が全くないのだ。
ロッドに関しては、これが幾ら、これも幾らと一本ずつ丁寧に説明があったのだが、それがない。
目立った物だけでもと説明してくれるように聞いてみた。
「あの〜素人目にもこれなんか購入した当時もそこそこの値段していますし、価値があるように思えるのですが、今ではそこまで価値がないものなんですか?」
「いや、これは今では禁止されている水鳥の羽で売ることができないんですね。こちらにあるのは、山谷で見かける山鳥の羽だと思いますが、こちらも同じくもう手に入らない品だと思います。購入された当初はかなりのお値段されたと思うんですよ、とても貴重な品です」
それから業者の人は止まることなく延々と鳥の羽に関する蘊蓄を語り始めた。
10分ぐらいは羽について語っていたと思う。
しかし、貴重で中々手に入らない高価な品だと言いながらも、何故手に入らなくなったのかという説明に入ると途端に雲行きが怪しくなってきた。
「これ、今包装されていますが、こういうものは長年放置しておくと虫が湧いちゃうんですよね。特に一番付きやすいのはハエで、ハエが一旦卵を産みつけるとウジというものが湧きます」
「あれ?何を説明しようとしているのかな」
ハエが卵を産むとウジが沸く過程は誰でも知っているだろう。
「ウジが湧くとそれを除くのは困難になって、こういう輸入された羽ってとても貴重なんですが、大体は包装された中に既にハエが卵を生みつけていることが多くて、それが気づかれないまま検疫通ってしまうんですよね。そればかりは避けられなくて、結局販売自体今ではされなくなりまして」
「ハエのウジですか?」
「はい、もう一旦湧くと除去するのが難しくて羽自体も変色して行くので分かるんですが」
「あの、ですけどこれを購入したのは恐らく10年以上前ですし、私の目からはウジというか虫自体が湧いているようには見えないですが」
「いや〜これは」
業者がもう一度手に取りながら呟いた。
「それも、もうウジが湧いた後だと言うんですか」
「恐らく湧いてますね」
「え?」
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