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紙とデジタル、2つの教科書ユーザーが共存する授業の設計:西春奈先生(岡山商科大学)

西先生は、紙版にするかデジタル版にするか、ということは学生に自由に選ばせています。両タイプの学生が共存できる授業を上手に設計しています。①デジタル教科書「書き込み共有機能」の活用、②復習中心から予習中心へシフト,③10分間理解度チェックという3段階の流れを毎回の授業で実施することで、学生の学ぶ意欲や満足度を高めています。そのやり方について詳しく教えてもらいました。

はじめに

 私の担当授業(図1)では碩学舎『1から』シリーズを教科書として使っており,受講生は紙またはデジタルいずれか好きな媒体を選ぶことができます。現状は紙媒体を選ぶ学生が多く,デジタル教科書の需要は履修者の1割から2割程度に留まっています。そのため,授業設計では学生がどちらの教科書媒体を選んでも差が生まれないように気をつけています。今回は学生の教科書利用状況と,2つの教科書ユーザーが共存する授業での工夫を記したいと思います。

図1:2022年度〜2023年度の担当授業と教科書

デジタル派?それとも紙派?学生の教科書利用実態

 過去2回,受講生を対象に教科書利用状況を調査しました(第1回調査2022年7月,第2回調査2023年7月,MS Formsで実施)。その結果,デジタル派は増えているが,まだまだ紙派が多いことがわかります(図2)。デジタル教科書を選ばなかった学生の声は,大きく次の4つに分けることができます。

  1. 「紙は中古で安く手に入るから」,「先輩にもらったから」

  2. 「紙の方が使い慣れているから」,「デジタル教科書に馴染みがないから」

  3. 「紙の方が自由に書き込める(と信じている)から」

  4. 「他の授業に合わせて紙を選んだ」
     

 一方,デジタル派は主にモバイルノートPCかスマホ(iPhone)でEDX UniText(デジタル教科書閲覧アプリ)を使っているようです(図2)(スマホの小さな画面では読みづらいのでは?と心配になりますが,余計なお世話ですね)。

図2:用意した教科書とデジタル教科書の閲覧端末


 図3はデジタル教科書の満足度評価の結果です。EDX UniTextにはWindows版,Mac版,iOS版,Android版,ブラウザ版が用意されており,2023年はそれぞれの操作性・閲覧性,そしてデジタル教科書使用の総合評価で「非常に満足」しているユーザーが増えました。
 最後に,「教科書と授業との連動性」に対して少し不満を感じている学生がいることも確認できます。そこで,2023年後期は次の3つの工夫を加えました。

図3:デジタル教科書の満足度

教科書と授業の連動性を高める工夫

 2023年度の「消費者行動論」(対面・履修者170名)は,第1回から一章ずつ教科書(松井剛・西川英彦編著『1からの消費者行動 第2版』)の内容に沿って進めました。講義は従来通りPowerPointスライド(碩学舎が教員会員向けに公開している講義資料に加筆したもの)をベースにしながら,教科書と授業のリンクを意識して,①デジタル教科書「書き込み共有機能」の活用,②復習中心から予習中心へシフト,③10分間理解度チェックを取り入れました(図4)。なお,これらの工夫により前期までの問題(復習・事後課題中心による出席率の低下,フィードバックの遅延)も改善されました。

図4:2023年度消費者行動論の流れ

①デジタル教科書「書き込み共有機能」で読み方ガイド

 デジタル教科書ユーザーに向けて,今回は最小限の書き込み(①テキストボックスで予習課題を指示,②緑色マーカーで読み方ガイド)を共有しました。あまり多くの情報を書き込むと,紙媒体を選んだ学生との不公平感が出てしまうためです。紙の教科書ユーザーには,LMS上の共有資料 [①授業目的と到達目標,②重要概念,③考えてみようを15回分まとめたもの] を通じて各回の要点を事前に伝えました。

②復習中心から予習中心へシフト

 次に予習課題として,次回講義で扱う章を読み「面白い」と感じた言葉・文・節を抜き出し,その理由をレポートしてもらいました(図5)。今年度から配当学科が増え,配当学年が引き下げられたことから,少しでも予備知識を持って講義に参加してもらえるよう予習を動機づけつつ,学生の負担を大きくしないように内容と配点を考えました。
 あらかじめ学生の興味や疑問を確認できるので,予習を取り入れてよかったと感じます。また,予習内容が「腑に落ちる」を意識した講義を心がけるようになりました。そして学生からは「教科書の内容が面白かった」,「デジタル教科書を買ったので空き時間でいつでも予習ができる」,「自分が面白いと感じた箇所を提出するため負担はなかった。講義内容と関連付けながら理解を深めることができた」という声がありました。

図5:デジタル教科書“書き込み共有機能”の活用と予習課題

③講義ラスト10分間で理解度チェック

 
 理解度チェック課題は選択形式で2~3問,当日扱った章のうち基礎と深掘りした箇所から出題しました(図6)。学生の反応も良く,教科書やノートを読み返し取り組む様子が見られました。特に,デジタル教科書ユーザーはキーワード検索機能を上手に使っていました。講義時間内の理解度チェックは,「従来の事後課題(1週間以内に提出)よりも,講義に集中できた」そうです。
また,理解度チェックのフィードバック(振り返り)から講義を始めることで,前回と当日の内容の繋がりを強調することもできました。

図6:毎回の理解度チェック課題と期末課題

 以上のように,今期は改めて教科書と授業のリンクを意識することで,学生が教科書を読み考える機会を増やすことができたと感じます。他方,①で触れたデジタル教科書の「書き込み共有機能」は,引き続き活用方法を模索したいです。例えば,あちこち散らばった教材をまとめるなどが今後の課題です。




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