デジタル教科書を能動的に活用してもらうには:北村真琴先生(東京経済大学)
私はゼミで、『1からのマーケティング・リサーチ』(第2版)のデジタル教科書を利用しています。内容理解度を問う事前課題をデジタル教科書に私がテキストボックス(付箋)で書き込み、ゼミ生はLMS(学習管理システム)上で期限までに回答します。ゼミ中は、その回答を紹介しつつ、誤答が多かった箇所を中心に私の独自スライドで補足・解説した上で、サンプルデータを配信して統計解析ソフトで実習してもらう、という流れです。
2022年度に配信・教材システムがNTT EDX社の「EDX UniText」に刷新されたこともあり、今回2023年度のゼミ生に、新システムの使用感や仕様への要望などを聞かせてもらいました。この意見を通して感じたのは、現代学生の学習スタイルを見据えて、私はもっと丁寧に、デジタル教科書の有効活用を導くべきだった、ということでした。 そこで、デジタル教科書を採用する際に学生にガイドすべき点を以下のようにまとめてみました。
学生自身の書き込みの実態
デジタル教科書の主な利点は、①学生自身による書き込み・編集・消去が自由、②教員からの書き込み共有(配信)が可能、の2点だと思います。
まず①についてです。学生は、マーカーやテキストボックス(付箋)などを駆使して、デジタル教科書を「自分色に染める」ことができます。しかし、ゼミ生のうち、いわゆる「ノートテイク」に当たるメモを教科書に直接書き込んだのは、1名のみでした。そのゼミ生は、見開き2ページ中央の余白部分に付箋で、予習した用語説明やゼミ中に調べたことなどを書き込んだそうです。ただし、文字数が多い場合は、OneNote等でまとめ直しをしていると教えてくれました。以前に本研究会で、「見開き2ページのうち教科書は左ページのみで、右ページはノート用の白紙にしたら便利そう」という話が挙がりましたが、やはり余白だけでは書き込みスペースが足りないケースがある、ということです。なお、他のゼミ生のノートテイキングは、紙のアナログ派と、電子ファイルのデジタル派が、大体半々でした。
私自身の経験でも、紙の教科書の余白ではメモのスペースが足りず、また「書く・まとめ直す」という作業により理解度が深まる実感があるため、ノートを用意していたわけです。しかし、せっかくデジタル教科書を利用しているのに、ノート部分が別のアプリや紙媒体にあるのは惜しいです。従って、例えば「共有された他学生の秀逸レポートに自分の考えを付加したまとめメモを付箋で貼り、折りたたんでおこう!」といった具体的な作業を早い段階でさせておけばよかったと感じました。
教員からの書き込み共有
②の教員からの書き込みについては、書き込み位置と、書き込み検索についての意見が挙がりました。まず書き込み位置についてです。まず書き込み位置についてです。私は付箋を貼る際、気づかれやすいようあえて折りたたまず、かつ、本文に重ならないよう見開き2ページ中央の余白部分によく貼っていました(図1上)。しかし、スマホの縦画面だと見開き1ページになり、ページ外の部分は切れて次のページにまたがって見えるため、次のページにまたがる付箋はやめてほしいそうです。「スマホでも横向きにすれば見開き2ページになるよ」という発言に驚いたゼミ生や、付箋が邪魔なら小さくたためる(図1下)のにこの機能を知らないゼミ生もいました。学生がマニュアルの細部まで読んでいないという前提で、見開き表示や折りたたみ機能を説明しておくべきでした。
次に、書き込みの検索についてです。今回、現状の「書き込み一覧」機能では、学生は「自分の書き込み」しか検索できないと知りました。教員側では自分用と共有用の両方とも検索できるので、これは盲点でした。このままでは、学生は後日、「共有された他学生の秀逸コメントに〇〇への言及があったような…」「△△について先生が補足説明した付箋はどこだったっけ?」という時、ページをめくりながら書き込みを逐一確認せねばなりません。この点も、例えば「重要だと感じた共有書き込みのインデックスを作り、そのページにジャンプするリンクを残しておこう!」などと指示すべきでした。
まとめ
これらの工夫をすれば、仮に学期末にテストやレポートを課す場合でも、学生は自らのまとめメモやインデックスを「書き込み検索」で一覧表示させた上で、重点的に復習したり、書き込みを参照しながらレポートを作成したりと、より能動的かつ効率的な学習ができそうな気がします。今後、デジタル教科書の導入する時には、機能や仕様だけでなく、こうした「デジタル教科書活用法のガイド」についての説明を積極的にしようと思います。