短編 セワシが着てたアレ
あの銀色の服。
私はずっと待っている。
悪いけどカッコイイと思ったことはない。
というか、ダサいまである。
だけど、それが店に並んだとき、一番に買いに行きたいとは思っている。
それは、ただの「未来を実装したい欲」なことは自分が一番分かっている。
あの未来の銀色の服。
上下セット、もちブーツも買う。
上のシャツは絶対にインな。
最初はドルガバとかVUITTONから出て、そのうちユニクロが廉価版出して、カラーバリエーションなんかコーデして、
あれ?カシミア銀セットじゃん、セールだよ、ママ。買ってー。
とか言ってたら、
「そんなのグラデーションでやってくるに決まってんじゃん」
と姉に諭された。
どういうこと?って聞いたら、
「いや、普通明日から一斉にってことはないでしょ。
だから、最初は上の銀Tシャツだけ流行って、デニムとか合わせたりもするんじゃない?」
あーなるほど
.....ってことは、
「もう銀Tは出てるってこと?」
と、言う訳で姉と血眼になって、ネットで探して一番それっぽかったのを購入した。
悪くない。
*
人間が不死になれない大きな理由の一つに、
エントロピーの増大の問題がある。
私たちが、水に溶けた一滴の墨汁だけをすくい上げることができないように、
世界は不可逆性の中にあり、熱力学的に言うと、世界は一方向へ散らかり続けている。
引き出しの中の箸やフォークやスプーンが次の日には必ずバラバラになっているようにだ(怒)。
秩序あるものは無秩序なものへと流れていき、エントロピーが増大するとすべてはやがて死に至る。
という宇宙法則が絶対の法ならば、私の整理戦頓が壊滅的なことも説明がつく。
あのとき購入した銀Tが引越しの折、十数年ぶりに段ボールから出てきた。
一緒に盛り上がってくれた姉はもう隣にはいない。
エントロピーは私の寂しさえも消し去ってくれるのだ。
終