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息をするように空想を膨らませて、二次小説を書いていた。

息をするように空想を膨らませて、二次小説を書いていた頃があった。ざっと振り返ると、小学生の頃から社会人1〜2年目くらいまで、そうしていた。

学校に向かう道すがら。
つまらない授業中。
夕ご飯を心待ちにしながら。
あたたかい湯船に浸かりながら。
夜眠りにつくまでの間……。

頭のなかではずっと、わたしにしか見ることのできないオリジナルの映像が流れつづけていた。

そして、ペンを持てる時間やスマホに指を滑らせられる時間であれば、息を吸って吐き出すように、オリジナルの映像を言語化して、二次小説として、この世に形を為すことが当たり前の事象となっていた。

「二次小説」とは、既存の商業創作物から派生して生まれた物語のことだ。

実体験をもとに、たとえ話をしてみよう。

わたしは小学生の頃、はじめて『名探偵コナン』の映画を観た。『名探偵コナン』とは、週刊少年サンデー連載の長編人気漫画・青山剛昌先生が手がける推理ミステリーだ。

1994年に刊行し、すでに単行本は100巻超え。これまで1年に1度放映してきた映画総数も30本目前と、言わずもがな大人も子どもも虜にする大人気漫画といえる作品だ。そんな『名探偵コナン』とのはじめての出会いは、映画10作目『名探偵コナン 探偵たち鎮魂歌(レクイエム)』だった。

もともと『名探偵コナン』には「怖い」イメージを抱いていたため避けてきたのだが、友だちに誘われ断る勇気がなかったわたしは、しぶしぶ映画館に足を運ぶことになる。けれど、そこで待っていたのは苦痛の時間ではなく、新たな喜びとの邂逅だった。

映画の最中、幼いわたしの心を大きなハートの矢で貫いたのは怪盗キッドだった。

美しい身のこなしと異彩を放つ瞳、そして闇を隠し持っていそうな心根に、心底惚れてしまったのだ。

わたしにとって、はじめての「推し」となった怪盗キッドおよび黒羽快斗(怪盗キッドの本名)。

それからは『名探偵コナン』はもちろん、黒羽快斗が主人公の『まじっく快斗』まで擦り切れるほどに読み込み、それでも飽き足らず、親のパソコンを借りて黒羽快斗の二次小説を探しまわったものだ。

黒羽快斗の作品に触れれば触れるほど、愛はスクスクと成長していき、「彼氏にするんだったら黒羽快斗がいい!」と小学生ながら半ば本気で考えていた。

常に黒羽快斗が頭の中にいる生活を送るなかで、わたしが黒羽快斗を主人公にした二次小説を書くことは、自然な流れだったように思う。

わたしの頭の中で、いきいきと活動する黒羽快斗。いつからか100均一で購入した星柄の青いノートにえんぴつを押しつけて、空想のなかで生きる黒羽快斗を言葉で写し出すようになった。(ちなみに夢小説ではない。あくまで、まじ快・コナンの世界を生きる快斗たちの物語だ。)

不思議なもので、えんぴつは止まるという行為を知らないように、わたしの手を乗っ取ったように、ノート一面を埋め尽くしていったーー。

前置きが長くなったけれど、つまり「二次小説」とは原作者とは異なる人が、原作のキャラクターや世界観を活かして新たに紡ぎだす物語のことだ。

人見知りでクラスメイトとうまく話せなかったり、自分の部屋がない監視されたような家に居心地の悪さを感じたりしていたわたしにとって、空想の世界を見るのは、何よりも楽しい時間だったのだと思う。

心のなかにぽっかりと空いた穴を埋めていくような感覚があり、二次小説を書くことで、わたしはわたし自身の心を励ましつづけていた。

「息をするように二次小説を書いていた」というのも、本質的には二次小説を書くことで「息ができていた」のではないかと思うほどだ。

そう考えると、小学生の頃から社会人1〜2年目あたりまでは、ずっと二次小説で息をする日々を過ごしていた。

その道中では黒羽快斗から浮気して『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリック、『弱虫ペダル』の東堂尽八、荒北靖友、『僕のヒーローアカデミア』の爆豪勝己など、あらゆる推しに出逢い、空想を言葉に写し出したものだ。

いまでも黒羽快斗が最推しであることは、変わりないのだけれど、でもここ数年で変化が訪れた。

二次小説を書かなくても、息ができるようになってきたのだ。わたしにとってこれは嬉しい出来事である。

息ができるようになった理由は明白で、心にぽっかりと空いていた穴を埋めてくれる人が、いつも側にいてくれるようになったからだ。

空いた穴を「推し」で埋めていた日々からの解放。満たされた心とともに、生きる日々。

これからは「息をするため」ではなく、「書きたいという純粋な気持ち」で、二次小説に向き合えることを、とても幸せに思う。

とはいえ書きたい思いはありつつも、すっかり二次小説を書かなくなってしまったのだけれど……。

気持ちが乗ってきたとき、わたしの頭の中に住んでいる「推し」たちと、また一緒にオリジナルの世界を旅して物語を紡げたらいいなと思っている。

 by セカイハルカ
 画像 : minadukisouさん(色合いがきれい✳︎)
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