【中年の危機を生き延びる】(16)不眠のメカニズムとその対処法
うつ状態のときに一番しんどかったのは、なんといっても「眠れないこと」でした。
一時は心療内科で処方された睡眠薬を使ったりもしましたが、結局すぐ目が覚めてしまい、そこから朝まで覚醒状態が続きます。目が覚めたまま起床時間のアラームを聞くのは、本当に辛いものです。
ちょうどその頃、派遣で校正の仕事が始まり、一睡もできないまま職場へ向かうこともありました。「これは居眠り確定やな……」という心配をよそに、なんと全く眠くなりません。あくびひとつ出ないのです。これには恐怖を感じました。
うつから回復するのに睡眠は最重要だと思うのですが、うつ症状のひとつに「不眠」があるというのは、なんとも皮肉です。
私の場合、ベッドで横になってみても脈拍が速いまま。深呼吸をすると一時的に遅くなりますが、またすぐドッドッドッドッドッ……と速くなる。交感神経が優位なままで、リラックスするための副交感神経に切り替わらないのです。
感覚的には、頭の中でずっと「警報が鳴り続けている」感じ。罪悪感、後悔、自己否定の感情が渦巻き、心が休まることがありません。
脳もこの状態を「ヤバい!」と認識しているようですが、残念なことに、人間の脳も身体も、基本的に狩猟採集時代から変わっていないらしく、このヤバい状態を、どうやら「猛獣か何かに襲われている!」と勘違いしているようなのです。
必然的に、「やべぇ!とにかく早く逃げろ!」となって、アドレナリンが出まくり、脈拍数も上がる。そんな状態で眠れるはずがありません。脳にすれば、一番「寝てちゃダメ」な状況なわけですから(笑)。
と、これが私なりの「不眠のメカニズム」の仮説です。
ちなみにその頃、「ちゃんと食べているのに体重が激減する」という現象も起こっていたのですが、それもこのメカニズムで説明できると思います。
食べ物を消化・吸収するには、それなりのエネルギーと時間が必要です。ところが、狩猟採集時代のままの脳と身体にすれば、「いままさに猛獣に襲われている!」わけですから、呑気にそんなところへエネルギーを割いている場合じゃありません。一刻も早く逃げなければならないのです。
まずは「目の前の危機」に対応するほうが優先となり、消化・吸収にまでエネルギーが回らない。結果、いくら食べても体重はどんどん減っていく……というわけです。あくまで私の勝手な仮説ですが。
このように、私の中では「不眠」と「体重減少」は同じメカニズムによって起こっていたのですが、それを裏付けるように、回復していくタイミングもほぼ同じだったと思います。
さて、「不眠のメカニズム」の仮説を立てたところで、「じゃあどうしたらいいの?」と言われると、これがなかなかむずかしい(笑)。
おそらく、「猛獣に襲われてないよ!大丈夫だよ!」という安心を得られればいいのでしょうが、そう簡単にはいきません。
当時もひたすら試行錯誤するしかありませんでしたが、何とかそこから抜け出すことができたことは確かです。
というわけで、ここからは私が実際に試した対処法を、いくつがご紹介したいと思います。
●「海の呼吸」をする
眼科医の友人に教えてもらった方法です。私が不眠に悩んでいると言うと、この「海の呼吸」を勧めてくれました。心身が落ち着き、安心感が得られます。深呼吸に近いですが、ちょっとコツがあります。
どうやらヨガの呼吸法のひとつらしいです。インターネットで調べてみると、全然違うやり方が載っていたりするので、気になる方はいろいろ試してみてください。
●全身に力を入れてから、脱力する
緊張でこわばった体を脱力するための方法です。一度あえて全身に力を入れてから一気に脱力することで、効果的に体を緩めることができます。
●就寝の90分前くらいに入浴する
眠りにつくためには深部体温を下げる必要があるそうです。入浴後は深部体温が下がるので、就寝の90分前くらいに入浴しておくとよいと言われています。寝る時に体を冷やさないのは大事ですが、厚着したままだと眠れなかったりするのでご注意を。
●ストレッチをする
風呂上がりのストレッチ。意外とこれが一番効果的だった気がします。YouTubeでもいろんなストレッチ法が紹介されていますので、合いそうなものを試していくとよいと思います。
●ひたすら横になる
どうしても眠れない時は、「体を横にして休むだけでオーケー」と割り切っていました。気をつけていたのは、朝になったらカーテンを開けること。それからまたベッドに戻ります。
ずっと真っ暗な部屋だと気が滅入りますし、体内時計も狂ってしまいそうです。当時は眠れないなりに、1日に9時間くらいはベッドで横になるようにしていました。
ちょうどその頃、歯医者で親知らずを抜いたのですが、2週間後くらいに歯ぐきの回復具合を見た先生が、「すごく回復が早いですね!びっくりしました」とおっしゃられたのです。
そんなお世辞(?)を言うような先生ではないので、喜びもひとしお。「ちゃんと眠れてなくても、横になっていればそれなりに回復するんだな」という確信を得たのでした。
●呪文を唱える
ベッドに横になっていても精神的に苦しいときは、ひたすら「呪文」を唱えていました。「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」「ありがとうございます、ありがとうございます……」「大丈夫、大丈夫……」。完全にただの気休めですが(笑)、ネガティブ思考の回転速度をゆるめるくらいの効果はあったような気がします。
さて、不眠の対処法をいくつかご紹介しましたが、気になるものがあれば試していただければ幸いです。
眠れなくても朝が来てしまうように、「明けない夜はない」は真理だと思います。いま眠れなくて辛い方も、それが永遠に続くことは絶対にないはずです。生きていれば、いやでも何かが変わっていく。そう信じて、お互い生き延びていきましょう。
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