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#10お坊さんは肉を食べる?食べない?

「幽霊っているの?」「運の正体とは?」などと思ったことは誰しもあるはず。そんな“目に見えないもの”にまつわる素朴な疑問や、仏教に関する知識を、SNS等で人気の僧侶、仁部(にべ)兄弟がゆるく解説。二人の掛け合いが楽しいインターネットラジオ「お寺ジオ」の配信内容をベースに、加筆・再構成してお届けします。

右:兄の前誠、左:弟の前叶

○弟・前叶 お米、お芋、栗、柿、ブドウ、さんま…秋は収穫の季節!美味しい食の恵みに食欲も増しますね!

●兄・前誠 そういえば、お坊さんをしていると食事について聞かれること結構多いよね。よく聞かれるのは「お肉は食べますか?」

○弟・前叶 それから「精進料理ではネギなどの五葷(ごくん)も避ける食材で食べないのでしょうか?」っていうのもあるね。

●兄・前誠 質問にそのままお答えすると、お肉を食べていないかというと、お肉は美味しくいただいております。例えば、お肉を食べないというイメージの原始仏教、お釈迦様が生きていた時代のお坊さんたちの生活をみてみましょう。佐々木閑先生の『出家とは何か』という本に詳細に書かれています。
「出家者は原則として与えられたものは何でも食べるのであるが、食べてはならないものがいくつかある。特に肉類は殺生と結びついているので注意が必要である。肉や魚をたべることは決して禁じられていない」つまりお釈迦さまもお肉を食べていました

○弟・前叶 ここ大事だね。

●兄・前誠 そうだね。「しかし、それはあくまで在家者の食べ残しの肉でなければならず、布施をするためにわざわざ殺して調理された肉は受け取ることはできない」つまり、その肉を布施するため、お釈迦様に食べてもらおうという一心で動物を殺して食べてくださいって差し上げたものは食べられないということ。また、たとえ残り物であっても、種類によっては食べることが許されない肉もある。人の肉、象の肉、馬肉、ヘビ、ライオン、トラ、ヒョウ、ハイエナの肉は食べることが許されないとあります。

○弟・前叶 このあたりの紹介されている肉は我々も基本的に食べません。ライオンとかトラとか皆さんもそうでしょう(笑)。
そして、我々がいつでも肉を食べますか?というと、そうではありません。お坊さんになるための修行の時や日蓮宗大荒行堂などの特殊な修行期間中は、皆さんがイメージするような精進料理ですね。
卵や各種お肉はもちろん、意外なものだと“かつおだし”なんかも食べません。あとは乳製品とかそういったものも。主義主張のためにやっているわけではありませんし、押し付けられているわけでもありませんが、ビーガンに近いですかね。

○弟・前叶 あと荒行は「五辛五葷避けるように」ということで一切ありません。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、ざっくりいえば “刺激物”や“辛いもの”っていうイメージをしていただけるとわかりやすいかと。ネギやニラ、ラッキョウ、ニンニク、それから当たり前ですが七味とかもダメですね。じゃあなんでダメか? みなさん、激辛料理を食べている人をイメージしてみてください。

●兄・前誠 最近好きな人多いよね。

○弟・前叶 顔を真っ赤にして、血管太くして、大汗かいて、血眼で食べている姿。つまり刺激物や辛いものは、昔の人が食べている人の姿を見た時に、人間の底の部分にある怒りだとか惑わされてしまう人間の弱さ、欲情などを引き出してしまうもの、悪魔のスイッチみたいなものだと考えられたんです。

●兄・前誠 食べものが、“鍵”の役割をしてしまうというか。

○弟・前叶 そういう捉え方をしていたから、自分たちからその扉を開けてはいけませんよと。簡単に言うとそういう仕組みになっているわけです。

●兄・前誠 仏教で餓鬼とか怒っている神さまとかの体が赤く描かれているのは、そういう象徴だったからかも。不動明王とか憤怒の相で体が赤かったりする。

「精進」の本当の意味とは?

○弟・前叶 精進料理ってお坊さんが食べるものって言われているけれど、「精進」の本当の意味をお伝えしたい。
まず精進の反対は贅沢。たとえば、肉を食べたとか食べないっていうことよりも、「山の幸」「海の幸」っていうものがあったとして、山に住んでいる人間が山のものをないがしろにして海のものを食べたい、これは贅沢なんだよね。その逆もしかりで、海の民が海の幸をないがしろにして山の食材を食べたいっていうのは、考え方として贅沢っていうものになります。
海は海、山は山にあるものを余すことなく、無駄にすることなく、人間の自分勝手な発想ではなく、しっかりと頂戴していくっていうこと、これが「精進」なんだよね。

●兄・前誠 日蓮宗はスローガンで「いのちに合掌」という言葉を掲げています。そういえば、お恥ずかしい話ではあるんだけど、この前、いのちをいただくという事で衝撃というか。川釣りに行ったんだけど…。

○弟・前叶 それで、それで?

●兄・前誠 それでね、川釣りに行ってニジマスを釣ったわけ。調子よくてたくさん釣れたんだけど、釣ったあとが問題で…。魚が飲み込んだ針を出すときに血だらけになったり、内臓まで引っ張りだしちゃったりして。美味しくいただくために捌くことも自分にはできなかった。ウってなっちゃって。友人は慣れてるから粛々とやってたんだけどね。
でね、魚をいただくと。。。それはそれは美味い!でもやっぱり複雑な気持ちにもなって釣っただけで捌くこともできなくて、美味しさだけは感じて…それってどうなの?って思った。日々の生活でいのちをいただくことって、隠されているというか見えなくなっている。本当にいのちをいただくことってこういうことなんだよなっていうのをまじまじと感じました。

○弟・前叶 急な懺悔のような。それは多分だけど、兄貴の考えの根底に宗教家、仏教家としてのフィルターが1枚あるから、恥ずかしいっていうか、原点回帰できたんだろうね。

●兄・前誠 いのちに合掌して食べ物をいただくという姿勢、それこそ“精進”なんじゃないかなって思う次第です。

○弟・前叶 今の時期はおでんが美味しいです。ありがたく美味しくいただきましょう。

●兄・前誠 いのちに合掌。

仁部 前誠(にべ・ぜんじょう)
1988年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。2012年より日蓮宗宗務院に奉職。2016年、日蓮宗加行所初行成満。2020年よりRadiotalkにて、弟の前叶氏とともに「midnight temple radio お寺ジオ」を配信。僧侶としてのモットーは、「法華経の話はほとんどしませんが、すべては法華経の話です」。 最近では、『あなたは尊い 残念な世界を肯定する8つの物語』(漫画・やじまけんじ/監修・佐渡島庸平×日蓮宗/徳間書店)制作プロジェクトに参加した。https://twitter.com/nibe_zenjo

仁部 前叶(にべ・ぜんきょう)
1991年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。さいたま浦和地区保護司。2015年、日蓮宗加行所初行成満。2020年、仏教死生観研究会「死の体験旅行」講師を務める。同年、上原寺別院「祈誓結社」を設立。”ほとけ様との架け橋“であることを目指し、命の強さと有り難さについて伝えるべく活動している。
https://twitter.com/6SYAKU_HOUSHI