誰にでも出来る品種改良、そのコツ

残念だ、残念で仕方がない。

僕はそう思った。

日本には世界の縮図と言われるほど多様な生態系がある。

その中には日本独自の進化を遂げた希少な植物や、世界中の作物の原種にあたる植物がある。

また、その原種に近い野生種まで存在するので利用できる遺伝資源に溢れているのだ。

"なのにほぼ手付かずで利用されていない"

例えば

僕といえばキイチゴと思われることも多いですが

ただただキイチゴを利用しているわけではなく、他の様々な植物も並行して研究しているが、

一番進んだのがラズベリーを含むキイチゴ類であっただけである。

何故なら日本には北海道から沖縄まで数十種類に渡るキイチゴが存在しており、その性質も様々で利用しやすいからだろう。

そして日本のキイチゴの多くはラズベリーとの交配が可能で、古い海外の品種にもラズベリーとモミジイチゴの交配種が存在する。

さらにキイチゴ類は発芽してから開花に至るまでが1年程度なので1世代を作るのに発芽期間を含め2年しかかからないのである。

まぁ、ここでキイチゴ類の話しをしても仕方がないかもしれないが、可能性というものを意識することが大事だということがわかってもらえれば嬉しい。

そして面白いのは同じ交配をしたとしても、生まれる個体はそれぞれ異なるので、必ず自分オリジナルの品種が生まれるということ。

ただ、忘れてはいけないのはただ交配をしたからといって良いものができるわけではなく

品種改良が品種退行になることも十分ありえるということ。

例えばネギとニラの雑種では、ニラのように乾燥に弱くネギのように暑さに弱いという中途半端な例も見られる。

どうやって、何を品種改良しようか?

それを考えるにあたってのコツは順番立てて考えることである。

①まず何を品種改良したいか?

②次にどういうものにしたいか?

③何ができそうか?

これだけ、

これだけ押さえれば小学生でも品種改良くらいはできる。むしろ寿命が長い子供の方が品種改良は有利かもしれない。

①まず何を品種改良したいか?

これは全然自分の好みでかまわないし、可能性を感じる植物全部やってしまえば良い。市場価値が高そうなものでも良いしね。結果がでやすいトマトなどがはじめ易いかもしれない。

②次にどういうものにしたいか?

例えばカボチャであれば暑さに弱い西洋カボチャの耐暑性を上げたい。ブドウであれば自家受粉しないヤマブドウを自家受粉させたい。などの面から、ただただ味を良くしたいという方向もある。

③何ができそうか?

は、カボチャであれば西洋カボチャに暑さに強い日本カボチャを交配することができる。ヤマブドウなら自家受粉する栽培種と交配、もしくは品種改良とは違うがメス木にオス木を接ぎ木することが可能である。味の面で言えば糖度の高い種や香りの良い種を掛け合わせるなど。

こうしたように何ができそうか?まで考えることが可能だった植物のみ品種改良を行えば間違いない。

もちろん失敗はあるかもしれないが、原因を追求することによって段々と成功率は向上する。

交配による品種改良の基本

交配による品種改良の基本は除雄と言われる方法が便利だ。自家受粉する植物の場合は交雑を確実にするために、受け側の個体の雄しべを除去する。

先のまっすぐなピンセットか、細いトゲぬきを用いるとよい。

雄しべを除去することにより、他の株からの花粉でしか受粉できなくなるので交雑が確実となる。

注意する点は雄しべのヤクが開き花粉が出る前にこの作業を行うこと。

種類によってはツボミのうちからヤクが開いて花粉が流出し、開花する頃には自家受粉が済んでいるものもあるので注意が必要だ。

それからピーマンやブルーベリーのように除雄すると他花受粉でも受粉しにくくなる種類も存在する。そういった場合、雄しべのヤクだけを取り除き軸は残す、もしくはヤクのだけ糊を塗って固めるなどの工夫が必要となる。

薬品による品種改良

薬品による品種改良はコルヒチン処理くらいしか個人ではできない。コルヒチンは0.1グラムでも作用するのでそれほど精製されている必要はない。つまり原料であるコルチカムをすりおろせばこと足りるのである。

ただ正確な含有量を計れないので,コルチカムを少し多めに使い濃いめの水溶液を作る方がよいかもしれない。

球根には15グラム中に4~7グラムは含むとされるので、これを目安にすると良いだろう。

1.5~2%の水溶液が妥当かも知れない。

成長点を含む植物をコルヒチン水溶液に8時間ほど浸すというのが定番。他には新芽に塗布するなどがあるが、後々挿し木か取り木が必要になる。

コルヒチンがなにをするかというと植物の細胞分裂の正常なコピーを阻害し、染色体のセットを倍に増やすことができる。

例えばブドウの多くは2倍体だが、ピオーネなどの巨峰系統のブドウは4倍体である。

キングデラはデラウェアの4倍体とマスカットオブアレキサンドリアの交配種なので

3倍体の植物である。

3倍体や5倍体などの奇数の場合は性染色体が減数分裂できないので、ジベレリンなどの薬品を利用せずとも種無しになる、花粉が機能しなくなるなどの異常が現れる。

みなさんがいつも毎朝食べるバナナさんも3倍体なので種がない。

野生バナナはほとんどが2倍体か4倍体なので種子が沢山ある。

この倍数性を理解していないと品種改良ができない植物がいくつかある。

例えばブルーベリー、ブルーベリーのラビットアイ系品種は6倍体、ハイブッシュ系のブルーベリーは4倍体である。

ラビットアイとハイブッシュの交配により、

丈夫な性質と果実品質のたかさを受け継いだのがサザンハイブッシュである。

サザンハイブッシュを直につくるとハイブッシュ×ラビットアイになるため5倍体になるが、ある工夫をすることにより安定した4倍体にすることができる。

それは1度2倍体の野生種を取り入れることである。

6倍体のラビットアイと2倍体の野生種を交配 させると4倍体が生まれるので

それをハイブッシュ系のブルーベリーと交配すれば

4倍体ハイブッシュ×4倍体(ラビットアイ×野生)

になる。

つまり人間がXとYのどちらかを親から受け継ぐように、植物も親から半々を受け継ぐと言うわけだね。

イチゴなども野生種を利用する場合は種類ごとに倍数性が違うので品種改良する場合には考えながらやる必要がある。

まぁ、なかには96倍体の野生種などもあるしやってみなければわからないことも多いですが、

もし野生種を利用しないでトマトならトマト、キャベツならキャベツという栽培種内だけの形でやるならばそれほど気にする必要はありません。

花粉のコンディションが大切

花粉のコンディションが悪いと受粉できない場合もあるので、花粉親に利用したい株から何度も花粉をとれるようにしておくと成功率が上がる。

組み合わせも同じ交配を1花だけするのではなく、何花も交配しておくと発芽後の選抜も可能になる。

朝の花粉、昼の花粉、夜の花粉など様々なコンディションで試してみるのも良いだろう。

ズバリ交配による品種改良に大事なのは勢いとタイミングかもしれない。

出来るかも知れないのであればやるべきである。

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