荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』
式場を出て気疲れの首かたむけて本音のやうな骨の音を聴く
嫌なだけだと認めずそれを間違ひと言ふ人がゐて春の区役所
春が軋んでどうしようもないゆふぐれを逃れて平和園の炒飯
棚や椅子や把手のねぢを締めながら白露わたしのゆるみに気づく
他意のないしぐさに他意がめざめゆく不安な冬の淵にてふたり
喪主と死者のやうにひとりが饒舌でひとりが沈黙して寒の雨
嫌だなあとやけに泡だつこゑが出て自らそれが嘘だと気づく
香車の駒のうらは杏としるされてこの夕暮をくりかへし鳴る
同じ本なのに二度目はテキス