無人島にひとつだけ持っていくなら眼鏡。
眼鏡を外していると何か足りない気がしてくるようで、2歳の息子には「パパ、かお、へんだよ。めがねかけて。」と言われます。
眼鏡を外して風景をみると、途端に視界は印象派のキャンバスです。曖昧な輪郭に混ざり合う光と影。遠くと近くが揺らいで思考まで溶けていくようです。
なぜ眼鏡なのか。
コンタクトレンズではないのか。
レーシック手術は受けないのか。
コンタクトレンズは滅多に使いませんし、レーシック手術は受けません。そもそも強度近視が過ぎてレーシックは適応外ですが。
弓道に没頭していた頃はコンタクトも使用していましたが、違和感が拭えずに眼鏡に戻しました。目の違和感ではありません。顔の違和感です。眼鏡がないと落ち着かないのです。あまりに落ち着かずにコンタクトレンズ+ダテ眼鏡という奇行に走った時期もありました。
近視の強さを屈折率で示す方法があります。
視力検査でランドルト環をみて1.2だとか0.2だとか、そういう数値とは別の指標です。私の場合には視力検査をしても一番上の輪すら見えませんし、その数値で記すなら0.01以下ということになりましょう。測定不能です。
屈折率はDで表します。
端的にはレンズの焦点距離の逆数で、1mの焦点距離を1Dと定義します。近視の場合には焦点が網膜の手前にありますからマイナス表記、遠視の場合には焦点が網膜より奥にありますからプラス表記になります。
1m先まではっきり見えて、それより遠くなるとボヤける人は、概ね-1.0Dのレンズを使うと遠くまではっきりみえるようになります。50cm先から見えなくなる近視では-2.0Dということになります。
私の眼鏡は-9.5D前後です。
裸眼では10cm程度の視界しか見えないということです。
裸眼では無人島で生き残れないでしょう。
全裸でもなんとかなりますが、裸眼では厳しい。
したがって私が無人島にひとつだけ持っていくことができるなら、まず眼鏡を選択します。ナイフだとか鍋だとか、そんなものは現地でどうにでもなりますが、レンズを作るのは困難を極めます。安全な水の確保をしようにも、裸眼では水場まで辿り着けません。必需品といえましょう。
しかし、と私は考えます。
もしかしたら、近視の診断書があれば眼鏡は衣類と同格として例外的に標準装備を認められるかもしれません。すると持っていく枠がひとつ空きます。
その枠に入るのは、アレしかありませんね。
そう、ベア・グリルスです。
英国陸軍の特殊部隊出身の彼は卓越したサバイバル能力を駆使してエベレスト登頂、南極大陸や北極圏を含む世界中を冒険してきたナイスガイです。
彼の人気番組にはヤラセ疑惑が出ることもありますが、そんなことはどうでもいいのです。楽しいから。過酷な無人島生活であっても、きっと彼がいればたちまち楽しいサバイバルライフに変化することでしょう。
貴方は無人島にひとつだけ持っていくなら、何にしますか。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方が日常から想像の翼を広げてめくるめく冒険の世界に誘われますように。