他者に影響を与えるコツ 【実践心理学】
誰も言うことを聞いてくれない。
そう嘆くスーパードクターと食事をする機会がありました。
彼は最先端の分野で活躍する医師で、以前同じ病院にいた頃を思い出してみても、その診療技術が卓越したものであることは明白です。極めて理性的で科学的な彼女の診療スタイルは、的確な診断と治療を導きます。
彼女の悩みの種は、上司と癖の強い同僚たちでした。
曰く、チーム診療の形態では重要な決定のときには複数人の合意が必要だが、自分の案がなかなか採用されない、と。それはカンファレンスの場に限らず、日常診療のふとしたときに「こうしたらいいんじゃないか」というニュアンスで提案しても、なんとなく流されて無視されたようになるというのです。
あらゆることを想定内に落とし込み、場のコントロールを狙う彼女にとって、その職場環境はたしかにストレスが多いことだろうと私は想像しました。
一体なぜ?
問題の核心部分を言い換えるならば、
なぜ彼女は他者に影響を与えられないのでしょうか。
それはきっと彼女が相手をコントロールしようとしているからだと、私は思いました。私の脳裏には、神経学者のターリ・シャーロットの言葉が浮かびます。
すると、彼女は相手や場をコントロールしようとするあまり、却って反発を受けているということになります。彼女のケースに限らず、誰かを変えようと思ってもうまくいかない背景には、しばしばみられる構造といえるでしょう。
では、どうすればいいか。
これをそのまま伝えたら、きっと彼女は「自分の主体性が失われる」と思って抵抗するでしょう。悩み事相談のようにみえるときでも、真っ向から解決策を返すのが得策とは限りません。とはいえ悩める彼女を放置するのも気が引けます。癖はありますが根っからのお人好しで優秀な医師である彼女には、もっと周囲からの理解があって然るべきだろうと私は思いました。
「この前、読んだ本なんだけど、」
私はそう切り出してシャーロット博士の著書を紹介しました。
「好みは分かれると思うけど、扱ってるテーマは面白いなって。…君はその本を読んでみてもいいし、読まなくてもいい。」
ハルキ構文やめろwとツッコミを賜り、村上春樹氏に感謝しながら念押しの一言を添えてみます。
「まぁ紹介しといてアレだけど、君が人の意見をガンガン変えられるような無双状態になったら怖いからやっぱ読まないほうがいいや。」
うるせー、と彼女は笑っていましたが、おそらく彼女はその本を読むでしょう。カリギュラ効果も使い方によっては人の為になるものです。
さて、これから彼女は変わることができるでしょうか。もし彼女が件の本を読んで変わるようなら、私は彼女に影響を与えることができたということになりますね。結果を楽しみに待ちましょう。
拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、貴方の言葉に力が宿り、伝えたい誰かに真っ直ぐ届きますように。
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