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言霊のエチュード

 職場でイジメを受けている、と彼女は言いました。詳しく話を聴きますと、かなり深刻な状況にみえて彼女の日常生活に支障が出ています。私が気にしなければいいのかもしれないけど、と言いながら彼女は深い溜息をつきました。

 育児のために時短勤務を申請し契約雇用となったのに、当然のように早朝から時間外まで働くことを強要される職場。非正規雇用のため福利厚生は乏しく、さらに十分な残業代も支払われないまま、上司に相談しても有耶無耶にされてしまうようでした。男性の多い職場ですから、家事育児に理解が乏しいという背景もあるのでしょう。それにしたって、与えられる仕事の内容や勤務シフトを聞くと、これでどうやって家庭を維持するのかと途方に暮れそうなものでした。

 ひとつ上の先輩に、彼女を害する人がいるそうです。シフトを決める役割を負う彼は、わざと彼女が困るような組み方をしているのだと、その職場の別な人から聞きました。困っている彼女を見かねてその人がシフトを代わったところ、わざわざ電話がかかってきて「どうして交換した。こっちは嫌がらせでやってるんだから、勝手なことをするな」と脅迫に近い警告を受けたというのです。

 そうこうしているうちに、彼女は後輩からも余分な仕事を押し付けられるようになって、どうしてだろうと悩んでいたら、その裏には先輩が居たそうです。曰く、アイツは強く言えば逆えないから嫌な仕事を押し付ければいい、などと。隠れてそんな話をしているところを、偶然聞いてしまったと、彼女は泣きました。

 嫌われる理由が分からない。
 育児しながら働くことが、そんなに悪いのか。

 促迫する呼吸を抑えながら、彼女は小さな声で呟きました。


 正気の沙汰ではありません。

 彼女を害する先輩も、それに同調する後輩も、そんなことが罷り通る歪で異常な職場自体も。何が働き方改革。何が子育て支援。ブラック企業なんて生温い言葉を免罪符のように使う組織を、私は赦しません。

 彼女に加護を。
 彼等に報いを。

 告発文のひとつとして、ここに記録を残します。


 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、この世にある全ての理不尽なイジメが潰えますように。



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渡邊惺仁
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