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君、微笑んだ夜に
その夜、息子は真っ直ぐ私を見て言いました。
「ぼくもパパをてつだうよ。」
息子は三歳、娘は一歳半になりました。共働き家庭の例に漏れず、我が家も夫婦で家事分担をしています。妻が利き腕を負傷して家事の多くが困難になってからは、炊事、洗濯、掃除そのほか色々な家のことをこなすのは私の役割です。
仕事が終わると息子と娘を迎えに行って、家に着いたら夕飯を作ります。炊飯器は朝セットしてありますし、自動調理器も役立ちます。昨日までに作り置いておいた副菜は適当に使いましょう。子どもたちは手を洗うと、テレビをつけて二人で遊び始めます。喧嘩することもありますが、力加減を知っている息子が娘を傷つけることはありません。むしろ娘の方がアグレッシブに挑戦して息子を泣かせていることも日常です。それぞれ強く育ったら宜しい。
出汁をとりながらメイン料理を作り始め、余裕があれば副菜の種類を増やします。電子レンジもフル活用。便利な家電の数々に感謝します。なんとなく一汁三菜の体裁が整うと、食卓に並べて夕飯が始まります。妻の仕事は時間が読みづらいため、夕飯前に帰宅することもあれば、夜遅いこともあります。可能な限り家族四人で食卓を囲み、雑多な話題が場を彩ります。
夕飯を終えると小休止。妻が洗濯物を畳みながら子どもたちと遊ぶ様子を見守りつつ、私は片付けをします。食洗機を導入して良かったとしみじみ感じながらテーブルを綺麗に整えます。
遅くとも20時までには子どもたちの入浴に移ります。誰と風呂に入るか、子どもたちの希望で決まります。最近は娘と妻が一緒に入って、次いで息子と私が入るパターンが多いように感じます。
入浴を終えると、光の速さで子どもたちの肌を保湿します。最近の研究では、湿疹などで肌が荒れていると抗原が経皮感作されてアレルギーを発症しやすくなるという報告もあります。息子も娘も肌が荒れやすい体質ですから、念入りにケアする習慣ができました。
子どもたちの寝かしつけは、そのときの状況にもよりますが、いずれにしても家の片付けや翌日の準備などがありますから、私の就寝時間は23時前後です。朝は5時過ぎに起床して掃除や洗濯、朝食の準備を済ませます。6時半頃に妻と子どもたちを起こして、また一日が始まります。
その日。
寝る支度ができた息子は、私の手伝いを申し出ました。もう眠いんじゃないか、先に寝ていたらどうか、と問うと、「だいじょうぶ。てつだう。」と譲りません。娘の寝かしつけを妻に託して、必要最小限の家事を息子と一緒にやってから寝ようという作戦を立てました。
風呂掃除、残りの食器洗い、洗濯の予約、それから部屋を少し片付けて、翌日の準備を済ませます。難しそうなところは「見取り稽古だよ。何事も先ず見て学ぶことから始まるんだ。いいかい。」と声を掛けると、息子は「わかった」と頷いて、やる気に満ちた表情でふすーっと鼻息荒く私の動きを凝視していました。
「ぼく、おおきくなったら、
ぜーんぶできるようになるんだ。
それで、パパをてつだうんだよ。
パパがつかれちゃったときは、
ぼくがやるからね。」
そう言って息子は微笑みました。
フッと肩の力が抜けて、息子を抱き締めました。
「ありがとう。」
滲む視界に息子の笑顔が映ります。
息子と寝室に入ると、娘が元気に踊っていました。妻は憔悴しています。そんな日もあるよね。
私は妻のリフレッシュタイムを設けるのが急務と判断し、彼女の気持ちを訊いてから寝かしつけ係を交代しました。
図書館で借りてきた絵本をオリジナリティ溢れる雰囲気で劇的に読み聞かせ、幾度か読みながらトーンを落としてあくびが出たら灯りを消します。
右脇に息子を抱え、左脇に抱えた娘が驚異的な寝相で寝入るのを見届けて、ほどなく私も夢の世界を訪れました。
日が昇り、また一日が始まります。
今日はどんな日にしましょうか。
きっと素敵な一日になりましょう。
拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは貴方の迎える夜の景色が、穏やかなものでありますように。
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