湾岸都市 《詩》
「湾岸都市」
貨物船が白い航跡を残して
沖へ出て行こうとしている
此の場所には港があって
其れを取り囲む様に街がある
其処から直ぐに山の斜面が始まり
家々が建ち並び港を見下ろす様に
山の上側まで並んでいる
海と山との距離は決して広くは無い
人々は此処を湾岸都市と呼んだ
僕は部屋で本を読んでいた
冷え過ぎたワインの瓶が汗をかいている
君の好きだったチーズをナイフで切る
クラッカーに乗せて食べた
特に考えなくてはならない事も無く
穏やかな時間が過ぎて行く
港には夕闇が迫っている
煙草に火を付けて静かに煙を吐き出す
其の煙がゆっくりと輪郭を
失いながら消えて行くのを見ていた
星がくっきりと
夜空に点を打つ様に輝き始めた頃
僕はまた不在の存在感を感じ始める
いつまで忘れられずにいるんだろう
いつから独りきりの
週末になったのだろう
焦点の定まりきらない夜が僕を見ている
結像しない姿が映し出される
多面的な広がりと奥行きが消えて行き
ひとつの
置き去りにされた想いだけが残る
残酷な程の力強い絶望では無い
其処にあるのは空虚だ
混乱した無力感と
虚脱感の果てにある空虚だ
生活破綻者の芸術家の恋
スケッチの様な断片的な言葉と
画像が果てしなく繋がる
その場所には僕と君が居る
他のどの場所にも無い光がある
嘘じゃ無い 確かに光があった
湾岸都市の海で
僕はマーメイドの詩を聴いた
港には小さな波
白い泡が消えて行く
街外れの
ジャンクヤードを彷徨う夢を見た
始まりさえ歌えない僕が居る
ワインはもう残り僅かだ
貨物船が白い航跡を残して
沖へ出て行こうとしている
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