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夜の中に 《詩》

「夜の中に」

夜の中にキスを投げるまで

ネックレスについた黒い星

僕は夏の火花の片鱗を見ていた

星は光を瞬かせ
海のまわりには灯火が煌めく

水面を渡る静かな風が旋律を奏でる

ある種の陶酔を僕の中に誘発する
一対の黒い瞳 

其れはただ得もいわれず美しかった


深い夏の情熱に満ちた
プラチナ色のさざ波

恋に落ちた男の気配を

君は感じ取っているはず

彼女の微笑みは
口づけへの誘いの様に見えた

あの日 あの夜 約束の口づけ

僕等には確かに
何か欠落しているものがあった

互いの欠落が意識的に情熱を生み

固有の強い力と結びつく

其の力は僕等の欠落を
超越し正当化して行く


肉体の魔術的輝き 

彼女は自らの魅力と欲望を
行使する事によってのみ

喜びを感じる事が出来る

彼女にのめり込む事によって
もたらされるエクスタシー

約束は交わされたと言う無上の恍惚

其れは独りよがりな恍惚であり 

約束など何処にも交わされてはいない

それでも僕には絶望も失望も無く

残された執着と依存が
執拗に君を探し求める

彼女はブランコに乗っていた

白いドレスが揺れていた

そしてブランコを
どんどん早く揺らせていった

聞き取れない 

君が最後には何を言っているのか

上手く聞き取れなくなってしまった 

聞き取れない


僕は夜の中にキスを投げた

風に揺れている 君が揺れている 
全てが揺れている

そして僕は夜の中に

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