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記憶の残滓 《詩》

『 記憶の残滓 』

あまりにも残酷に思えた
記憶の欠片
広い集め全て灰にしたかった

然れど 時を重ね
記憶の残滓は
私の一部と化した

そう思えた瞬間
私の心は救われた

頬を撫でる冷たい風も
頬をつたう
涙のしずくの感触も

私が生きている証なのだ

Jun Takeici


「使いみちのない物語」

オイルの切れた機械の様に

ガチャガチャとうるさい音がする
どんよりとした灰色の雲

ソファーの上にはだらしなく乱れた
服 酒と煙草の匂い 

カーテンの隙間から入り込む陽光が
埃混じりの細い線光を床に作り出す

其の風景は音をたてて回転する
世界の複雑に混じり合う色合いの
ただの一コマに過ぎない

生命の気配はまだ微かに残っている

尽きる事の無い妥協の連鎖
急ぐんだ まだ遅すぎやしない

広い眺望の奥なる沈黙の中に身を潜めてうずくまる

重苦しい
空虚な静寂が尾を引いた後に

行くあては無いけど 
此処には居たくない
そう 誰かの声が聞こえた

僕は何処にも連結していない
記憶の断片の中に居る

其の記憶の多くは唐突に身勝手に
僕の前に現れる

筋道や一貫性を持たず

非整合的で
何処かミステリアスな感覚を与える

しかし其の思い出された光景が

僕に何らかの特定の感情や結論を
もたらす訳では無い

僕は完璧な空白を眺める様に
其の景色の先にある
地平線を見ている

恐ろしく寒い冬の午後だった

其の事だけは 
はっきりと覚えている

何も始まらない 
僕を何処にも連れて行かない

僕は其の記憶の断片の
使いみちを知らない

ただ仮説だけが其処に積み重なる

影を連れたモノクロ写真

長く引く其の影が
何か大切な事を物語る

被写体其の物では無い 

其処から延びる影に心を惹かれた

そんな写真を撮る君に出逢った

彼女の撮る写真が僕の
使いみちのない記憶の断片と
重なって行く

其の切り取られた影は僕に何かを
思い出させようとしている

僕は其の写真を机の上に置いて
物語の様なものを書き始めた

僕の中に喚起するイメージの様な
ものを隅々までなぞって書いた

彼女の写真と僕の記憶 

其れは僕の中で別の風景と結びつく

意識の深層にあるものが
覚醒して行く

ひとつの風景が眠っていた意識を
押し広げる

過ぎ去ってもう二度と戻って来る
事の無い時の記憶は
世界の終わりに似ている

彼女は僕の書いた物語を読み

貴方の言葉に救われる 
そう言ってくれた

使いみちのない記憶が
使いみちのない言葉の羅列となり
使いみちのない物語を生む

僕は其の書き上げた使いみちのない
原稿に火をつける

小さく燃える炎がまた長く影を引く

彼女は決して切り離す事の出来ない
其の炎と影の写真を撮った 

現実と幻想の中 夢を見る様に

影を連れた夜に僕等は腰掛けて
原稿が燃え尽きるのを見ていた

想い出として光り輝くものだって
あるよ

そう言って君は僕の指先に
小さく触れた

月の明かりが 
ふたりの時間を止めて

僕は瞳を閉じ耳を澄ませる

込み上げて来る想いが新しい物語を
語り始める

Seiji Arita


collaboration
「記憶の残滓」 Jun Takeichi
「使いみちのない物語」 Seiji  Arita

Photo : Jun Takeichi

⭐︎ thank you my friend ⭐︎

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