![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162732356/rectangle_large_type_2_c77f9762d1b29cbb5d0b4269c3291b18.png?width=1200)
太陽が捕らえた街 《詩》
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162732406/picture_pc_f380f4bad79d9500ba1658773c7e32da.png?width=1200)
「太陽が捕らえた街」
笑顔の固定された少女の人形が
床に転がる
淡いブルーの夏用のワンピースに
赤い靴
其の靴の赤だけが
些か不似合いで際立って見えた
昼下がりでも薄暗い部屋の中で
生温いビールを飲んでいる
足元には
妙な匂いのする犬が眠っている
彼女と暮らし始めて三か月が経っていた
陽当たりの悪い古い平家の一軒家だ
近くに多摩川が流れている
理想的な環境とは言い難いが
いざ物件を探してみると
なかなか良い住まいは見つからない
アパートは嫌だ 一軒家が良い
其れが彼女の意見だった
彼女はクラッシック のレコードを
四六時中聴く
アパートじゃ
音がうるさいって苦情が出るでしょう
それに犬も飼いたいし
そう彼女は話していた
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162732762/picture_pc_7c6958011dba32040fed7e583e7000f2.png?width=1200)
あちこち探して回ったが
どの物件もとても手が届かない
賃料だった
結局 この場所にある家に決めた
入居する前に大家さんの許可をもらって
うらびれて酷く汚れた壁を
白いペンキで塗り替えた
それで部屋は見違える様に
清潔で綺麗になった
気が付けば洗濯物は
勝手に綺麗になって
冷蔵庫の中は
自動的に補充されている
彼女は魔法使いの様な少女だった
週に一度
ふたりは買い物に出かける
今日は何が食べたい
明日は明後日は…
そんな話しをしながら
そして いっぱいになった
ショッピング カートは
僕等の前に広がる満たされた生活を
象徴するものだった
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162732902/picture_pc_6e01f692f210f947d963c230eeac04b6.png?width=1200)
犬を散歩させながら
多摩川沿いを歩いた
川は心地よい風を運び
流れる水の音は僕等に安らぎを与えた
太陽はいつでも僕等の頭上にあり
優しく時には力強く輝き続けている
誰も聴かない
クラッシック のレコード
クローゼットに残された
水色のワンピース
靴箱の奥に
置き去りにされた赤いサンダル
それでも太陽だけが
此の街を捕らえて離さない
何故 太陽はあの日と変わらず
輝き続けるのだろう
全ては変わって行くと言うのに
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162733112/picture_pc_05e665bbec7628b9f24c758e3fb6382a.png?width=1200)