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「先生、戦争やろうよ!」

もうかれこれ20年も昔の話になる。
A女子短期大学への僕の赴任が決まった直後のことだっただろうか。
科学文化史を担当する男の先生が、僕に質問した。
-西願先生の専門は軍事史ですが、ここは女子校です。女子が軍事史に興味を持つとは思えません。女子に興味を持ってもらうために、何ができるでしょうか。-
驚いた。
生まれつき、男女の嗜好は違うという前提で、質問している!
この質問に答えたら、その前提を認めたことになる。
それはできない。
僕は、フランスの、幾人かの優れた女性の軍事史研究者の名前をあげて、「女子が軍事史に興味を持つとは思えない」という前提を否定した。

初めての授業、僕は学生に質問した。
何を勉強したい?
僕が教えられるのは、戦争の歴史、メディアの歴史…。
すると女子学生がひとり、大きな声で言った。
「先生、戦争やろうよ!」
その隣にいたのが合いの手を入れる。
「うん。おもしろそう!」

内心、僕はニンマリだ。
科学文化史の先生の勝手な憶測(=偏見)に反して、女子だって戦争に興味があった。Pourquoi pas?何故いけない?
僕だって男子だが料理に興味がある。ファッションに興味がある。かつては『婦人画報』、『マリー・クレール』をよく読んでいた。Pourquoi pas?
女子だって『宇宙戦艦ヤマト』に夢中になれるし、ジェイソン・ステイサムのアクション映画を好きになれる。男子だって『エースをねらえ!』のファンになれるし、ふつうに『プリティ・ウーマン』を楽しめる。あたりまえのことだろう?

「先生、戦争やろうよ!」と、その女子学生は言った。
僕はふと映画『瀬戸内少年野球団』の夏目雅子のセリフ、「あたしたち、野球やりましょう!」を思い出した。


ちなみに、男女は生まれつき異なる興味を持つものだという見解をお持ちだった、科学文化史の先生は、その後めでたく、A短の学長様になられあそばされた。オモテの世界を動かすのは、彼のようなタイプの人間なのだろう。
彼にとって大事なのは「多様性を認める」ことだった。
男と女の嗜好の違いを認めることだった。
(まるで反革命家が、貴族と平民の生まれながらの違いを認めるがごとく。)
それさえ認めれば、秩序は動揺しないと考えるからである。

他方、僕は男も女も平等に同じものを享受する自由があると考える。

「戦争やろう!」と言って僕に元気をくれた、その女子学生、いまでは一児の立派な母だ。
今日は彼女の愛する旦那さんの畑から野菜が届く。
楽しみだ。

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