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お決まりの乾杯は、お決まりの仲間と、お決まりのビールで。
特別なビールがある。
それがクラフトビールや、せめてギネスだとしたらサマになるかもしれないが、違う。
極めて大衆的だけど、わたしには特別なビール。コンビニでもスーパーでも、いつでも手に入るけれど、1人では買わないビール。
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「岩下さんって、大学はどこ?」
「へぇ、サークルは?」
「あぁ、テニサーか。」
「あぁ」と続く表情には「毎晩飲んで騒いで、チャラチャラ遊んでいる名前だけテニスなサークル出身か」といった含みを感じることがある。
相手に悪気があるわけではない。もともとテニサーの印象はそんなもの。それに加え、私が早稲田大学に在学時は残忍な組織的輪姦事件が起き、その卑劣さとキャッチーなサークル名が相まって連日大きく報道された。それはテニサーではなかったが、大学、サークル、合わせ技一本。致し方ない。
私の所属していたサークルは、伝統もあり、まじめにテニスに取り組んでいた。20代の頃は、その含みのある顔に必死で抵抗していた。遊んでいた、と一括りにされることが嫌だった。楽しさだけじゃない、涙も想いもぶつけあってきたんだ、と。
井の中の蛙。
今となれば、飲んで騒いでは否定の余地もなく、含みのある顔に対して「遊んでいましたよ」と笑顔で返す。
試合に負けようが、彼女にフラれようが、それは恵まれた環境下でのお遊び。一方では必死に働いていたり、何かと戦っている同世代がいた。当時、私の流した涙は、苦労し、耐え抜いた人たちの涙に比べたら、同じ涙という漢字を使うのも躊躇うほど、軽かった。
世の中を知れば知るほど。
だから、実生活において、そんなモラトリアム期間の思い出は、心の中の箱に閉まっている。
蓋を開けて見せびらかしてもいい顔はされないし、わたしは開けなくても中身を知っている。
こんな宝箱を持っているのだから、人のためにできることをしたい。それが今の私のアイデンティティ。
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#また乾杯しよう
実生活で蓋をしていても、noteからの問いかけには、よくその宝箱が反応する。きっと、同じように閉じた箱の中身を覗かせてくれる人が多いからだろう。
しかし、自問自答する。
そもそもなぜお題にのっかる必要がある。
ビジネスの投稿がメインなはずだろう。
- ひっそりとハンドルネームから職業の記載を消してみる。
そもそもなぜお題にのっかる必要がある。
深くも、エモくもない、フツウの学生時代の思い出だろう。
- エモくなるかな、悪あがきに挿絵を描いてみる。
公開するほどの話じゃないと思いつつ、お酒の力を借りて。最後は「休日だから」と意味のない言い訳を追加して公開ボタンを押した。
もしよければ、浅く軽い思い出話にお付き合いください。
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学生時代。
毎日のようにサークルの同期が一人暮らしのわたしのアパートに来た。
試合に勝っても、負けても。
彼女ができても、別れても。
レポートが終わっても、単位を落としても。
内定、試験。いや、理由なんてなくとも。
「さて、今日は何を語ろう。」なんて気構えない。同期の全ての出来事が、みな、じぶんごとだった。
最寄りのスーパーで、お決まりのビール6個セットを右手、左手で1つずつ掴み、買い物カゴに積む。
アパートに着いたら、モワッとする部屋を整える。みなが手際よく動くので、もはや誰の部屋かもわからないほど。
気付けば、うっすらと汗をかいたお決まりの缶ビールも並べられている。
淡麗グリーンラベル
味よりも量の大学生。安く買うなら「のどごし生」でもよかったはず。
痛風でもなければ、「痩せすぎ」と「やや痩せている」を行ったりきたりしている20代なりたての男たち。そもそも糖質に拘らないスタンダードな「淡麗」でもよかったはず。
それでも、わたしたちが選ぶのはグリーンラベルだった。
「イインダヨ!」
「グリーンダヨー!」
全ては、この乾杯のため。
一人が「イインダヨ」と声を挙げたら、全員で「グリーンダヨー」と返す。
おそらく同世代の方は一度や二度、この乾杯をしたことだろう。当時、ドリフにそっくりな外国人が陽気にこの乾杯をするCMが流行った。
わたしたちは、それをひと時の流行ではなく、卒業するまでの間、続けた。内輪ノリ、誰に見せるわけでもない。CMがリニューアルされてもお構いなしだった。
「彼女と別れました。」
「イインダヨ」
「グリーンダヨー」
「今日は俺のせいで負けてごめん」
「イインダヨ」
「グリーンダヨー」
「内定、いただきました!」
「イインダヨ」
「グリーンダヨー」
報告が多い日に至っては、乾杯だけで何人かができあがった。
グリーンを切らして、コンビニをハシゴした時もあった。肩を組みながら、グリーンラベルを求めてのハシゴ旅は、意味がなさすぎて、ばかばかしくて、最高に楽しかった。後輩が内定祝いにヱビスを買ってきたときも、乾杯だけはグリーンラベルにした。まあ、この時は、ヱビスから飲みたいという声もあった。
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社会人になり、一度、同期の男だけで伊香保温泉に泊まったことがある。
テニスや観光もしたが、メインは夜の飲み放題バイキング。たらふく飲んだ。それでも、本当のメインは部屋に戻ってからの二次会。
温泉街にあるコンビニに肩を組みながら入る。地酒もいいね。ワインも買っとく?つまみは?そんな会話の中、買い物カゴに最初に敷かれていたのはグリーンラベル。
旅館に戻った後、乾杯をした。
「いやぁ、じゃあ、飲みますか。イインダヨ!!」
威勢よく現役並みに声を張った元部長に対し、わたしたちは照れながら返した。
「グリーンダヨー」
誰も強要していないが、乾杯の一杯は少なくとも半分以上、飲む。これもテニサーの習性。勢いよく缶を傾けている間(ま)が一致する。こんな一つの間さえ、お決まりで懐かしい。
「これ、久々に飲んだわ。」
「俺も」がこだまする。
あれだけ好んで飲んだグリーンラベルをそれぞれの晩酌では選んでいない。みな、この乾杯ありきだったのか。全員で笑った。
「キモチワル」がこだました。
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月日が流れ、グリーンラベルのCMは、例のドリフから嵐にかわった。
「おいおい、爽やか路線かよ。グリーンラベルはコミカルでいてくれよ。」
嵐がうつるたび、テレビに突っ込んだ。
その後も爽やか路線は続き、今は、あいみょんと多部未華子さん。
もはや突っ込まない。
そうだよ。そもそも糖質70%オフを男子大学生が好んで買う事自体がおかしかったんだ。なんのためのオフだ。求めている層は、そう。多部未華子さんだよ。
父親になったわたしにとって、あいみょんのハルノヒもまた心に染みる。
いいオフ♪ -うん。
カラダ、気持ちいいおいしさ。 -大正解。
わたしの変化。
グリーンラベルのマーケティングの変化。
そこに関連性はない。ただ、今を良く思いながらも、昔の騒々しくてばかばかしい絵もまた色褪せない点は一致した。
心のどこかで、志村けんさんを待つわたしがいる。
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味は正直に、発泡酒よりもビールが好きだ。
でも、メンバーが揃ったら、求めるものはコクでもキレでも後味でもない。味のリニューアルを何回したって、乾杯後は「美味い」じゃなく、おそらく笑う。生産者には悪いが、お決まりのビールってのはそういうもんだ。
多くの方がそうであるように、あれだけ毎日一緒にいた同期も、社会人になってから集合するタイミングは結婚式くらいになった。ちなみに、10代最後の年にサークルの悪い先輩に捕まり、そのまま3人の娘と先輩補正を失った夫と暮らすのは、私の妻だ。これもまたテニサーの習性。
そんな結婚式も、同期全員分終わった。
家庭をもち、子どもが生まれたり、転勤になったり。やっと仕事も家庭も落ち着き始め、そろそろ集まろうかという矢先。
▢▢▢
話したいネタはたくさんあるぞ。どれもみな浅くて軽いけれど。
もちろんリモート飲み会ならいつだってできる。海外に赴任している仲間ともできる。
でも、グリーンラベルは、肩を組んで乾杯したい。
しばし、待とう。
「イインダヨ」
お決まりの乾杯は、お決まりの仲間と、お決まりのビールで。
あとがき ↓
https://note.com/iwashitax/n/ncb044cfb4e76
#呑みながら描きました
#おつまみは色鉛筆
#さいごは勢いのエンジェルリング
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【 参加企画 】
https://note.com/info/n/n5638c49d56cc
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