【テキスト】スキマゲンジ第31回「真木柱(まきばしら)」その1
前回のあらすじ。
玉鬘は、尚侍として帝のそばに仕えるか、誰かの求婚を受けるかで悩んでいます。
スキマゲンジ第31回「真木柱」の巻その1。
物語は小説より奇なり。
「このことが帝の耳に入ると恐れ多いので、しばらくは人に漏らさぬように」と源氏の君は髭黒大将に注意しますが、大将は隠すつもりもないようです。「危うくよその男のものにしてしまうところだった」と思うと、手引きをしてくれた女房を拝みたくなる気持ちでいます。一方玉鬘は、その手引きをした女房を嫌って、自宅謹慎させています。
源氏の君は、「不本意だが仕方がない」と思って、きちんと婿としての儀式も執り行うのでした。
髭黒大将は一日も早く自分の邸に連れて帰りたいのですが、あちらには北の方(正妻)がいます。源氏の君は「波風を立てず、人の恨みを受けないようになさい」と大将に釘を刺します。
内大臣は、「かえって宮仕えよりいいかもしれない」と思っています。帝も噂を聞きますが、p「残念ではあるが、尚侍の職は辞める必要はない」と源氏の君に伝えるのでした。
髭黒大将がいない時、源氏の君は玉鬘のもとを訪れます。玉鬘は少しやつれた様子ですが、やはりとても美しいのでした。いろいろな話をしてから、源氏の君は「帝が残念がっておられるので、やはり出仕するように計らいましょう。髭黒が自分のものにしていては、外に出ることもできないでしょうからね」と言うのでした。
髭黒大将は、玉鬘が出仕することを嫌がっています。そもそも人目を忍んで通うということに慣れていないので、p早く自分の邸に迎えたいと改築をすすめています。大将の北の方は、もともと物静かで気立てが良く、おっとりとした人ですが、物の怪にとりつかれていて、ここ数年は正気を失うこともありました。玉鬘のことを聞いてからは、より具合が悪く、寝込むことも増えています。父の兵部卿宮が自分の邸に引き取るという話も出ています。
そんな北の方に髭黒大将は「あなたはいつも具合が悪そうだから、言いたいことも言いづらくなってしまいます。あなたのような病気を持った人でも、最後まで見捨てずにいようと今まで我慢してきたのに、実家に連れて帰るなどと、あなたのお父さまも軽率だな」と笑いながら言います。召使たちも、嫌な感じだと思って見ています。
北の方は、今は正気なので、とても可憐な様子で「私のことを、頭がおかしいと仰るのはもっともですが、父のことを悪く言わないでください」と泣いています。ひどく小柄で、病気のせいでやせ衰えて弱々しく、髪は長く美しいのだけれど、梳ることもできず、涙にくれているのは、ほんとうに可哀そうな様子です。
夕暮れになると、髭黒大将はうきうきと出かける準備を始めます。北の方は、自分のこともままならないのに、大将の着物に香を焚き染めてあげています。降っていた雪もやみ、もう出かけようとするその時、北の方は突然立ち上がり、大将の背後から香炉の灰も火種も浴びせかけるのでした。女房たちは「例の物の怪が悪さをし始めた」と騒いでいます。大将は大騒ぎで衣など着替えようとしますが、灰があたりに飛び散っているし、髭にももつれついているので、このまま出かけることもできません。大将はすぐに僧を呼んで祈祷をさせるのでした。北の方は叫びののしっています。
一晩中、北の方は泣きまどい、打たれたり引っ張られたりしていました。少し落ち着いてきたので、大将は玉鬘に文を書きます。玉鬘は、髭黒大将を嫌っているので、見ることもしません。大将はがっかりして過ごすのでした。
次回スキマゲンジ第31回「真木柱」その2は、北の方が実家に連れ帰られてしまったり、玉鬘の初出仕だったり。
不運な美女たち。お楽しみに。