記事要約のすすめ
日中・中日翻訳をする上で一番重要で、カギとなってくる能力は何かと聞かれたら、皆さんはどう答えますか?私ならば、国語力と答えます。
中日・日中翻訳において、日本語ネイティブなら中国語、中国語ネイティブならば日本語の文法知識に注意がいきがちなのです。もちろん外国語の文法知識はとても大切ですが、私はそれはあくまで「自分の訳文が正しいことを証明するための」自己武装のためのものであると考えています。
しかし私は、この国語力に長い間なやまされてきました。かけだしのニュース翻訳者のころは日本語らしからぬ文章を訳出してしまい、チェッカー担当の編集者から注意を受けたことも何回かありますし、訳文を笑われたことさえあります。
私自身は、その時既に翻訳・通訳の学校で何年か中日・日中の翻訳・通訳の学習経験を積んでいましたし、中日翻訳にある程度自信があったので、少なからぬショックを受けました。
ただ私は当時まだ若かったので、編集者のそういう態度を前にして「なにくそ!中国語の知識も知らないくせに」と反抗心をむき出しにしていました。
でも私はただ反発するだけでなく、そのような失敗の経験を無駄にしないようにして、他の人たちが訳出した文章を参考にしたり、新聞記事を読み込んだりして、自分の「国語力」向上に努めるようにしました。そのような努力が実を結んだのか、いつからか編集者からの注意も受けなくなりました。
ただ私は、日本語の文章を読み込むだけでは不十分だと最近は考えています。
なぜなら日本語の文章を読むだけでは、頭の中は「日本語→日本語」の思考回路しか育たないからです。一方で、私たちが取り組んでいるのは、「日本語→中国語」「中国語→日本語」の翻訳です。ならば、日本語の国語力をつけたその次にやるべきなのは、異種言語間の置き換え力と国語力の複合的なトレーニングではないでしょうか。
具体的に言うならば、「日本語文をざっと見て初見で要約文を中国語で書く」「中国語文を初見でざっと見て要約文を日本語で書く」というトレーニング方法ということになります。
私自身は「中国語→日本語」のニュース翻訳専門なので、最近は主に、「中国語文をざっと見て日本語で要約文を書く」というトレーニングに時間を割くようにしています。
しかし、最初にいきなり「中国語文をざっと見て日本語で要約文を書く」というのはハードルが高すぎます。
そこで私が最初のステップとして提案したいのは、「中国語のニュース記事をまず抜粋して抜粋部分を日本語訳し、つなぎ合わせて1つの記事にする」という手法です。
これだと抜粋部分を翻訳すればいいだけなので、ハードルはいくらか下がります。
しかも、中国語のニュース記事(事件記事、会議記事などなど)はある程度型が存在します。具体的に言うと中国メディアの記事は大体は
という流れになっています。つまり、最初のリードに詳しい中身が要約されているので、その段落、そして場合によっては最終段落も併せて訳せば、大まかな抜粋記事は完成するわけです。台湾の記事も見てもらえばわかるのですが、このようなパターンが顕著となっています。
このような抜粋に慣れたら次の段階に入ります。それは「論評記事の抜粋」をするということ。
「論評記事」「社説」などは上記で説明した記事の流れになっていないことが多いです。つまり、記事の最初から最後までしっかり読み込んで、「どこが要点の入った段落なのか」をしっかり見極めなければなりません。このため、ハードルは若干高いと言えます。
このようなトレーニングができたら、今度は「要約トレーニング」に移行します。
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ちなみに。「抜粋」と「要約」の違いはご存知ですか?
「抜粋」とは記事中の内容を文章単位でそのまま抜き出すこと。つまり、自分の言葉で文章を書くのはご法度です。
対して、「要約」は記事中の語句や文章を使用してもいいですし、自分の言葉で書くのも自由です。このため、中国語の語句や文章を日本語に変換した後、「自分の言葉」でより平易または分かりやすい文章を書きだすことが認められます。
中国語のニュース記事を日本語で「抜粋」「要約」する際に、自分で規定時間を設けるのも効果的です。また反対に日本語のニュース記事を中国語で「抜粋」「要約」するのもかなりの翻訳力向上につながります。
自信のある人は力試しにやってみるのはいかがでしょうか。
◇◇
最後に注意点を一つ。「要約」は翻訳力向上というよりも、あくまで国語力向上のトレーニングの一環であると捉えましょう。
なぜなら、正確性が求められるニュース翻訳においては、翻訳者が要約することはご法度だからです。
要約したり、自分の言葉で文章を書いたりするのが認められれているのは新聞記者や雑誌・本の編集権限が認められている人に限ります。ニュース翻訳者はあくまで記事を正確に日本語に訳出するというのが仕事であることを肝に銘じなければなりません。