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「日本語らしい文」ってなんだろう

翻訳業界でよく言われること。それは「翻訳をやるなら母国語はしっかりと身につけておけ」というものです。

そして、その後に続くのは「だからこそ小説や論文など母国語の文章をよく読め」というアドバイスでしょう。翻訳を目指す皆さんなら、一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか。

私は中日翻訳を20年以上続けていますが、このテーマに長年悩まされてきました。なぜなら私自身読書好きでも「本の虫」というわけでもなく、中二病の学生時代には「本を読め」という大人の言葉に反発して漫画ばかり読んでいたからです。

だからこそ、いざ翻訳通訳の道を本格的に目指そうとしたときに、この「ハンデ」がずんと私に跳ね返って来たのです。

実際に今思えば、現職に就いてから5~6年間までは、自分自身の日本語訳もかなり迷走していました。

自分の会社では、出稿前に私の翻訳原稿を翻訳のチェッカーにチェックすることになっているのですが、チェッカーさんはいわば「日本語のプロ」です。自分の翻訳原稿を提出するたびに、私の日本語のひどさに裏でクスクスと笑われることもしばしば。

でもだからこそ「なにくそ」という気持ちで、「日本語らしい文章をつくるためにはどうしたらいいか」という命題に真剣に取り組むことができたのではないかと思っています。

今でも、私の日本語の文章は正直プロの小説家の人たちや、ルポライターの方たちの文章と比べれば遠く及ばないと思っていますが、少なくとも中日のニュース翻訳の際に「自分なりにどう日本語の訳文を構築すればいいか」といういわゆる独自のノウハウを身に着けることができたと思っています。

これらの私自身が身に付けた「ノウハウ」を、当ブログではこれまで惜しみなく皆さんに公開してきました。もしまだ見ていないという方には是非、当noteの過去記事を参照していただければと思います。

ただ、「全部見るのはめんどくさいよ!!」という方もいるでしょう。そこで今回はそんな方に、私が主張している「日本語らしい訳文」を構築するためのノウハウをもういちど、簡潔に紹介しましょう。

1.主語をしっかりとそろえる。

これは非常に大切なことです。よく「日本語は主語がなくても成り立つ言語だ」という方がいます。確かにそうなのですが、翻訳においては「主語にがなくても成り立つ」という日本語の特徴に甘えることは厳禁だと言えます。

そして日本語特有の性質をしっかり捉えなければなりません。それは「同一の文章においては、最初の主語が最後までその主語であり続ける」という特徴です。

例えば、

私はデパートに行き、クリスマスケーキを買った。

日本語は同一の文章において、最初の主語が最後まで主語であり続けるという特徴があります。ですからこの文において、「デパートに行った」主語も、「クリスマスケーキ」を買った主語も「私」であるというわけです。

一方で中国語においてはカンマごとに突然主語が変わり、カンマ以前の文の主語だけでなく、目的語さえも主語に取ることがあり得ます。だからこそ中国語文を日本語に翻訳する場合は、カンマごとに「主語はどれか」ということをしっかりと検証しなければならないのです。ここを怠ると、「日本語っぽくない日本語文」ができあがってしまうことになります。対策方法は過去のnoteを参照してみてください。

2.時制をしっかりそろえる。

これも結構大事です。時制をそろえるということはどういうことなのか。

日本語においては、何もないフラットな状態の文章の場合、頭から最後まで語尾の助詞が示す時制であり続ける場合がほとんどです。これは日本語特有の特徴です。

例えば、先ほどの例文「私はデパートに行き、クリスマスケーキを買った」の場合、「デパートに行った」ことも、「クリスマスケーキを買った」ことも「過去のこと」として読み手には伝わります。

しかし中国語ではそうとは限りません。

カンマごとに時制が変わることは日常茶飯事であり、しかも過去、現在、未来を示す語句がなく、前後関係から時制を絞り出すほかない場面も多々あります。

このため、時制の変わり目をしっかり見極め、日本語に訳す場合は「しており」など接続助詞を用いて時制の転換を図ったり、いっそのこと「。(読点)」を使って文章をぶった切る勇気が必要だったりするべきでしょう。

◇◇

3つ目4つ目もあったりするのですが、とりあえずこの二つは中国語の文章を日本語訳する際の最重要ポイントとなります。これら2点をしっかり気にして訳すだけで、最悪「グーグル翻訳化」問題は避けられるはずです。

試してみてください。




3.

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