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【三選】小説関係の本じゃないけど小説づくりの助けになった本【2024】

今年の節兌見一は、集英社ダッシュエックス文庫さんから初の物理書籍を出版し、ついに本屋さんデビューを果たした。

『東京LV99』には個人的にかなり手応えを感じた。
SNSなどを見てもかなり好感触の感想をいただけている。
作品を選んでくれた人には良いものをお届けできたと思う。

しかしそれは本の中での出来事だ。
その外、本を世に送り出すことの難しさをあらゆる面で感じた。
「より面白い作品をつくれば、きっと商業で食っていける」
なんて甘いことは絶対に考えちゃいけないと思わされた。

今後もベストパフォーマンスを更新し続けていくことは大前提として、その上で学んだり改善したりしなければならないことが多々ある。

というわけで、今年読んだ本の中から「小説の技法書じゃないけど小説づくりの助けになった本」を三冊、感謝の念を込めて書き記しておく。

(1)感情とはそもそも何なのか 現代科学で読み解く感情の仕組みと障害

節兌見一は前の編集さんからよく『ドラマが書けていない』と言われた。
作品には読んだ人の心を動かすドラマが必要だ、と。
ただ、なぜドラマが必要なのか、なぜドラマが人の心を動かすのかは教えてもらえなかった(『驚き』や『ワクワク』ではダメなのか?)。

その後、作品中でドラマを描くようにもなったし、その効果も理解した。
たしかにドラマは人の心を動かすし、商業作品としてそういった仕掛けはあった方がよいのは間違いない。
それに、自分自身も人が変化していくドラマ性に心を動かされたことは一度や二度ではないのだ。
けれど、ドラマ以外にも人の感情を動かすものはあるハズだし、機能するからと盲目的に一つの仕掛けを使い続けることにも違和感があった。

「そういうものだから」では納得がいかない!
感情ってそもそも何だよ!?

そんなモヤモヤの鍵穴にぴったりハマってくれたのが、この『感情とはそもそも何なのか』という本だった。

脳科学の本である。
『自由エネルギー原理』という概念によって、人が物事をどう認識・評価し、その結果として感情が動くのかが解説されている。

大学レベルの数理モデルもバンバン飛び出し、途中ワケが分からなくなる。
それに、そのまま小説の創作に流用できるメソッドなどは書かれていない。

しかし、『そもそもヒトはなぜ面白いと思ったり、心を動かされたりするのだろう』
創作における感情の根っこ部分について、創作に活かすという目的意識や「そういうものだから」という曖昧さを抜きに議論してくれているのが本当によい。

基礎の理屈から創作を考えたい人向け

(2)お絵かきぐらしのはじめかた

節兌見一はいつか自分の小説の挿絵を自分で描けるようになりたいと思っており、裏で絵の練習をこそこそと続けている(表でやった方がよい)。
そのためお絵かき系の配信者さんを観たりお絵かき上達本を買いあさったりするのが趣味なのだが、その中でも「暮らしていく」ということに焦点を当てたのがこの本だ。

この本では著者の松村上久郎さんの実体験に沿いつつ、バズりや企業案件に頼らず堅実かつ現実的に「食べていく」方法を提案している。

たぶんインターネットで活動している人から見たら当たり前のことも多いのだろうが、少なくとも節兌見一にとっては目からうろこの本だった。
これまで、『作品づくり』と『それを知ってもらうための行動』は対極に位置する行動だと思っていたからだ。

着実に創作を続けて少しずつファンを増やしていくという方針は、そもそもバズりやSNSに忌避感があった自分にとってはありがたく、また、ツイッターなどで目に止めてもらいにくい小説媒体とも相性が良い戦略だ。

それに著者さんと自分の経歴がやや近い(大学の話とか)部分もあって勇気をもらえる点が多々あった。

商業と同人の間でどっちつかずに揺れ動いていた節兌見一だったが、この本をきっかけに「どっちもしっかりやるぞ!」と決心がついた。

「商業案件だけでは食っていけない」という話ばかり聞こえてくる創作界隈のジャンル全般に応用が利くと思う。
「もっと早くこの本を読みたかったぜ」と思わされた一冊。

(3)ドリルを売るには穴を売れ

マーケティングについて書かれている。
営業・マーケティング・コンサルティング業務などに携わってきた筆者が、イタリアンレストラン再建を託された新人マーケター『売多真子(うれたまちゃん)』の物語を通してマーケティングの基礎概念を教えてくれる本。

よりいいものをつくることはもはや当たり前。
これからはいかに読者さんに届けるかを本気で考えなければならない。

そう思っていくつかマーケティング関連の本を読んでみたのだが、とっかかりとして一番しっくり来たのがこの本だった。

この本ではそもそも「お金を出して商品を買ってもらう」という現象がどうして起こるのかという根本の部分から論理を展開していて、単純に「どうやって売るか」以上の内容が含まれている。
「マーケティング」と調べた時に検索上位に浮かんでくるような、歯の浮く横文字言葉や情報商材めいた人をノセる話法もなく、地に足がついた言葉で書かれていて読みやすい。
序文でも述べられている通り、基礎の考え方を教えてくれる「入門書」だ。

また、この本のもう一つの軸である『うれたまちゃん』の物語が面白い。
「リストランテ・イタリアーノ(イタリア料理のレストラン)」という事例説明のために作られたようなありきたりな店名が伏線になっているなど、結構驚かされる部分もあるし、キャラも立っている。

自分がこれから頑張ろうと思っている同人・商業双方の活動の助けになってくれることを確信している。
続編やより専門的な本もあるそうなので、今度探してみようと思う。

個人的2024年まとめ

『東京LV99』では書いた小説に確かな手ごたえを感じた。
しかし、それと同時に「本づくりで生きていくには本の外のことも考えなければならない」という課題にぶち当たった。
『ドリルを売るには穴を売れ』によれば、製品そのものの『品質』は、『広告』『販路』『価格』に並ぶ商品企画の一要素でしかない。
「商品ではなく作品として俺の小説を見てくれ!」とは、もう言えない。
今度は本の内容の充実だけではなく、より大きな視点での創作活動を目指したい。

2025年につづく――

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