「このキャラは果たして人類最速のガンマン『早撃ちのボブ』に勝てるのか?」で能力バトルを考える
◆まずは↓の動画をみてほしい。
(権利的に大丈夫な動画かは不明だが、ボブの凄さが伝わってくる)
みてもらえば分かると思うが、彼の早撃ちはあまりに速く正確だ。
彼の名前はボブ・マンデン。
0.02秒という驚異の早撃ち速度を記録した、実在のガンマンである。
この速さは次元大介やゴルゴ13、のび太など創作上の凄腕ガンマンをも遥かに凌駕しており、各分野に時折り現れる「フィクションより凄い人」を地で行っている。
早撃ちのギネス世界記録からは「デジタルを用いた記録がなく正確性に欠ける」ため削除されたという彼だが、少なくとも彼がとんでもないガンマンであることは一目みれば明らかだろう。
ボブ自身について、詳しくは掘り下げない。
早撃ちのテクニックについて自分は何も分からないし、ちょっとインターネットを彷徨ったぐらいでは彼のことを正確に調べられるソースに辿り着けなかったからだ。
問題なのは、上の映像から分かる彼のキャラクターと早撃ちの凄まじさ。
「こんな人間が実在するの!?」という衝撃である。
今回はこの凄腕ガンマン『早撃ちのボブ』を一つの物差しとして、能力バトルのキャラクターを評価する方法について考えたい。
◆なぜ『早撃ちのボブ』なのか?
フィクション作品、特に能力バトル系の作品は『現実を超える』という点で逆に現実に強く規定されているきらいがある。
そして、その『現実』を語る上で欠かせないのが『銃』という存在だ。
銃は、個人が持ち得る中で最も汎用的で殺傷能力の高い兵器だ。
そして、我々の現実を象徴する冷徹なシンボルでもある。
我々の日常と隣り合わせの場所には銃が存在している。
銃社会でない日本でもお巡りさんは拳銃を持っている。
山に分け入るハンターたちも猟銃を持っている。
よく知らないが、繁華街にいる怖いおじさんたちもたぶん持っている。
相手が誰であれ、銃を持ち出されたら基本的には勝てない。
人間が悪いことをすれば、銃を持った警察官たちに取り押さえられる。
我々の日常は銃によって、あるいは銃が濫用されないことによって守られていると言ってよいのかもしれない。
『銃』は社会のルールであり、個人の限界そのもの。
いわゆる『規範』を形作っている。
フィクションは時に現実の『規範』に挑戦する。
その意味で、銃はフィクションにおける仮想敵としてこれ以上ない相手だ。
そして、銃を持った仮想敵を考えるうえで、銃につきまとう戦争や犯罪といった後ろ暗い背景を感じさせず、かつ現実の個人であり技量も具体的に分かるガンマン『早撃ちのボブ』は、相手としてぴったりなのだ。
あと、ボブは現代だろうが異世界だろうが近未来SF世界だろうが関係なく活躍してくれそうなキャラクターをしているのがとても丁度よい。
◆どうやって勝つのか、あるいは負けるのか
もちろん、ただ凄い能力でボブに勝てれば、そのキャラクターが優れているというような短絡的な話ではない。
逆にボブに勝てないキャラクターだって絶対にいる。
むしろ、はっきり負けた方がリアリティや味が出る場合もある。
大事なのは、神速の技と拳銃の威力を併せ持つボブにどうやって勝つのか、あるいは負けるのか。
その過程がはっきりと想像できるかどうかだ。
例えばモンキー・D・ルフィはゴム人間なので絶対に勝つだろう。
たぶん先手は打たれるだろうが撃たれてもケロッとしており、むしろこの『早撃ちのおっさん』を気に入り、船に乗せようとするかもしれない。
(海楼石の弾丸……? そういう小中学生みたいなことは言わないの!)
こういった『体質』や『耐久性』で銃に打ち勝つパターンが、最近のジャンプ漫画には多いような気がする。
また、空条承太郎のスタープラチナのように『速さ』と『正確さ』で正面から上回るパターンもあり得るだろう。
一方、残念ながら生物的にはただの人間である竈門炭治郎くんが普通に戦ってもボブの速さと銃の殺傷力には勝てないだろうと思う。
しかし、そういう個人単位では不利がつく相手に結束してどうにか打ち勝つのが鬼滅の面白さであり炭治郎くんの良さなので「たぶんボブに勝てない」というイメージは、むしろ人間として戦う彼の美点を高めてくれるだろう。
というか、ボブほどの漢ならば炭治郎くんを気に入って早業の極意を教え込んでくれる師匠になってくれる可能性の方が高い。
ボブと戦わないという選択肢だってある。
また、もちろん結果が拮抗したって良い。
そういう力関係からは時として名勝負が生まれることもあるだろう。
とにかく、ボブという定数bを代入した際にどのような結果が弾き出されるのかのか。
それが明確にイメージできるようなキャラクターの方程式を組み上げることが大事だ。
体力、生命力、体質、間合い、五感、特殊能力、テクニック、作戦、覚悟、事前準備、装備、仲間、性格……
ボブを現実に存在する個人の最高戦力として物差しにすることで、キャラクターに確かな実在性を生む助けになるはずだ。
ちょっと、自作のキャラで試してみようと思う。
◆思考実験:ライトノベル『東京LV99』が『早撃ちのボブ』に挑むとどうなる?
せっかくなので、実験と宣伝を兼ねて集英社ダッシュエックス文庫から絶賛発売中の拙著・異種格闘ライトノベル『東京LV99』の登場キャラクターたちと『早撃ちのボブ』を脳内で戦わせてみる。
という状況設定でいざ、思考実験。
◆挑戦者一人目:舞薗雷地
脳内戦闘結果 → → → 辛勝
『東京LV99』主人公の舞薗雷地は、相手に触れれば電撃で大体勝つが、速度のある遠距離攻撃を持たない。5メートルの距離を埋める前にボブによってハチの巣にされてしまうだろう。
しかし雷地には【聖女の祝福】による自動回復がある。
【ゆうしゃのつるぎ】や四肢を盾にしてリボルバー6発を死なずに受けきれれば、リロードの隙を与えず接近して電撃で勝利できるはずだ。
かなり厳しい戦いになるだろうが、彼ならやれるはず。
頑張れ、男の子。
◆挑戦者二人目:九時宮針乃
脳内戦闘結果 → → → 勝利
『早撃ちのボブ』動画冒頭で、ボブは認めざるを得ないライバルとして『光の速さ』を挙げている。『魔法少女』九時宮針乃は【時間】魔法で相対的に光速で動くことが可能なうえ、銃弾の速度にも対応できる。
ボブには容易く制圧してしまうだろう。
能力バトルは、時たまこういう相性勝ちがあるのも面白い。
◆挑戦者三人目:山神一狼
脳内戦闘結果 → → → 敗北
山神一狼は潜在能力で言えば四人の中でもトップクラスかつ、強かな勝負勘をも併せ持っているが、一巻時点ではボブの速さやリボルバーの殺傷能力に対抗できる手段を持っていない。
残念ながら、今の一狼ではボブに勝てない。
◆挑戦者四人目:黒城あびす
脳内戦闘結果 → → → 惨敗
『東京LV99』第一巻の大ボスであり、魔力量で他を圧倒する元・異世界魔王の黒城あびすだが、その異能のほとんどが火力偏重、もしくは精神干渉系。
ボブの速さに対抗できない。
体力もクソザコナメクジなので銃撃に対応することも不可能。
【まおうのつるぎ】を使って味方や人質を作っておくのが彼女の常套戦術だが、事前条件からそれも封じられている。
万が一にも勝ち目はない。
まあ、本人がそういう自分の弱点を熟知しているので、そもそも決闘の場に来なさそうではあるが……
総括
以上、二勝二敗となかなか善戦している。
けっこうやるじゃん『東京LV99』。
いや、異能者に普通に引き分け以上に持ち込むボブが凄いのか?
と、このように人類最速のガンマン『早撃ちのボブ』を相手にしてみると、自ら創作したキャラクター達でも、作者の想像を超えて活躍したり、逆に全然勝てなかったりして面白い。
ボブの存在は現実と虚構の橋渡しになってくれ、キャラクターたちの強さ、その虚実を見直すきっかけになるはずだ。
もし能力バトル創作をたしなむ人がいたら、ぜひともこの『早撃ちのボブ』チャレンジを試してみてほしい。
◆おまけ:剣の達人も世の中にはいる
今回は『銃』の話だったが、同等かそれ以上にフィクションの世界で活躍している武器として『剣』が挙げられる。
『早撃ちのボブ』みたいな剣の動画には残念だがまだ出会えていない。
しかし、剣の達人は確かに現代にも存在する。
筆者は大学時代にフェンシングの授業を受けに行ったことがあるのだが、その授業の学生アシスタントさんが全国大会を経験した剣士だった。
試しに相手をしてもらえる機会があったが、何も分からないまま胸を貫かれたり、なぜか後ろから刺突攻撃を受けたりと手も足も出なかった。
衝撃的だった。
「事実は小説より奇なり」と言うけれど、現実に剣士を相手にしてその凄まじさを思い知らされた。
ボブといい大学生剣士といい、世の中には我々が知らないだけで凄い人が数多くいるようだ。
フィクションを扱うからこそ、現実に存在する凄腕の使い手にも目を向けることで、創作の幅が広がるんじゃないかと思う。
おしまい