そんな時もあったね。と彼は言った。

数年前のこと。
心の病が悪化して通院、休職、復帰、休職と繰り返した夫が退職した。

転職しようとがんばったが、
転職すればするほど悪化した。

不眠と食欲不振。そして生きていく気力も途切れそうだった。

0円収入である専業主婦の私。
目眩と腰痛と不眠で家事育児をするのも
やっとだった。

コロナ禍だった。

夫からいつの間にか表情がなくなった。
テレビを観る気力も、音楽や漫画を楽しむ気力も、家族と会話する気力もなくなった。

「最近、笑えないんだよ」
「なんとか笑おうと面白い漫画を読んだり、漫才観たりするんだけど、笑えないんだ。」

普段、自分のことを口にすることが少ない夫がそう言った。

そういう私も、何をみる気力もなかった。
寝ても起きても疲れていた。

数年たって、1年前。
夫は引続き心の休養中だし、私はパートをはじめたばかりだった。

ある時ふと気がついた。
「最近、よく笑ってるね。子どもたちとも」「ん?」
「前は、笑えないって言ってたよね」
「…あぁ、そんな時もあったね」

その言葉を聴いて、家事をしながら私は
ホロホロと泣いた。

彼にとってあの辛さは過去のものになったんだと。

今もお互いに社会復帰したとはいえない現状で、
親や子供たち、いろんな方へ心配をかけているかもしれないけど。

ぐっすり眠れるようになった。
家族に会話が戻った。
笑いが戻った。
おいしいねとご飯が食べられるようになった。

私はしあわせだ。

コロナ禍もおわり、当たり前に世の中が流れていくこと。TVでマスクしている人を見なくなったこと。それもしあわせに感じる。

穏やかに毎日が過ぎていく。
もちろん不安はあるけれど。

あの頃の不安感。
よく乗り越えたなぁと思う。

まだ先は見えないけれど。
今が一番しあわせだなぁと思って

毎日生きてる。

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