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パステルブルーの指先で描かれたものは~潮井エムコ『置かれた場所であばれたい』レビュー~
『置かれた場所であばれたい』(通称:置かあば)は、noteクリエイターである潮井エムコさん初のエッセイ集です。
今回は全26編の中から印象的だったエピソードをいくつかご紹介させていただきます。
学生結婚と子育て
近年、教員のブラックな労働環境が新聞やテレビなどで報じられています。
そのような状況でありながらも、生徒を教え導こうとする先生の姿に光明を見出しました。
高校時代、その先生に巡り会えたことは、作者にとって僥倖だったのではないでしょうか。
やさしい裏切り
高校学習指導要領の改訂にともない、2022年度から家庭科では「金融経済教育」を拡充した内容の授業が実施されるようになりました。
それよりも前にあのような形で消費者教育を行っていた人がいたとは・・・・・・。
僕も潮井さんと同じ立場だったら、間違いなくあの先生の術中にはまっていたことでしょう。
パステルブルーの指先
このエッセイは、幼少期から「皮膚むしり症」に悩まされていた潮井さんがそれを克服するまでの過程について描かれたものです。
今の私は、あの時の自分が羨ましくて唇を噛むような、そんな楽しい大人になっているだろうか。もしもそうなれていたら、パステルブルーに塗った指先で、あの頃の私を抱き締めてあげたい。
最後の部分からは、過去の自分に温かい眼差しを向ける作者の姿が浮かび上がってきます。
せんせいって、だれのこと
作者が幼稚園教諭だった頃に関わった男の子との心温まるエピソードです。
絵を描くのが苦手なタクミ君にその楽しさを知ってもらうため、思い悩みながらも彼と真摯に向き合う潮井さんの姿に心を打たれました。
このお話にはタクミ君の同級生でクラスのムードメーカー的存在のセイヤくんが登場しています。
屈託のない彼の言動は、タクミ君が絵を描くことへの苦手意識を克服するきっかけのひとつにもなったのではないでしょうか。
この2人は卒園後もいわゆる「ズッ友」でいるような気がします。
4月のママチャリロードレース
『置かあば』には潮井さんの保育士時代をテーマにしたエッセイがいくつかあります。
それらを読む度に保育士の仕事がいかに大変か考えさせられます。
「4月の~」では、家庭訪問時の苦労話について語られている一方で、ちょっとした優しさや気遣いに励まされた経験についても描かれているのです。
保育の仕事に携わる方々に改めて敬意を表したいと思います。
ひろみちお兄さんと一緒
自分もひろみちお兄さんこと佐藤弘道さんが体操のお兄さんを務めていた頃に「おかあさんといっしょ」を視聴していました(ただ、当時の記憶がおぼろげでここに詳述できないのが何とも口惜しいですが)。
幼稚園教諭時代、夏の運動会に向けての研修会に参加した潮井さんは、講師として招かれていたひろみちお兄さんと対面を果たします。当時、作者が感じた溢れんばかりの喜びは、ぜひ本書を手に取って確かめていただきたいです。
研修会の後、物販スペースで購入したひろみちお兄さんの本にサインをもらった際、緊張しながらも、潮井さんは思いの丈を伝えます。
「ひろみちお兄さんを見て育ちました」(p.197)
これに対し、ひろみちお兄さんはこう答えます。
「大きくなったねえ」(p.197)
後に潮井さんは、この言葉に込められたメッセージについて次のように振り返っています。
ひろみちお兄さんは、もちろん私のことなんて知らない。しかしその言葉は嘘偽りなく真っ直ぐで、私が一方的に感じていた親しみにそっと寄り添い、「君のことをずっと見ていたんだよ」と頭を撫でてくれたような気がした。
その日の出来事は、今もなお特別な思い出として作者の記憶に刻まれているのでしょう。
おわりに
他にも家族や友人との思い出などについて書かれたものが本書には収められています。
もし、2作目をお出しになる機会があれば、その時はまた感想等について投稿させていただこうと思います。
↓見出し画像は、本書の表紙を撮影したものです。