ACT.109『健在なる足』
もう1つのOB
御殿場線の華であった371系の転職列車、富士山ビュー特急を都留文科大学で下車した。
この駅で特急に乗り換えて再び富士山方面に向かう。
この富士急行線では、御殿場線で優等列車の時代の全盛期を支えた列車が共演している。都留文科大学まで乗車した富士山ビュー特急はその1つで、もう1つはこの後にやってくる列車だ。
都留文科大学で下車し改札外に出札。
その際にNARUTO列車(ここからは以下略)の折返しと遭遇する。しかしこの列車には乗車しない。もう1つのとっておきが待っているのだ。
しかしながらこの列車も大量の混雑具合であり、普通列車は殺人的な混雑具合を見せている状況だった。
「あまりにも億劫だなぁ…」
見える車内の状況に辟易しつつ、次に乗車する列車の切符を買う。
ここまで乗車してきた、JR東海の転職列車…である富士山ビュー特急。
この車両は富士急行に転職し、8500系と形式を変更した。
車両は大胆に改装され、有名な建築デザイナーの水戸岡鋭治氏による大胆な手が加わった。
この後に乗車するのは、そんな豪華な富士山ビュー特急とは遂になる存在である列車だ。どちらかと言えば、カジュアルな雰囲気を演出している普段着な列車というところだろうか。
しかし、この列車に乗車して学んだ。
「特急列車に乗車する時は絶対に指定席券を購入するべきなんだよなぁ…」
先ほどの富士山ビュー特急で根負けしてしまった思いが効いているので、ここは躊躇せずに課金して乗車する事にした。料金もそこまで大胆には掛からない。
それでは購入していこう。
てんやわんやです。
都留文科大学の駅で、追加の指定席券を購入して乗車する事にする。
乗車するのは、写真内の時刻表に掲載されているフジサン特急の1号だ。大月で折り返してやってくる。
と、窓口に向かったのだが…
窓口係員が電話で通話の対応に追われている。
「はい、はい…あっ、そうですね…」
棒立ちで通話の内容をじっくり聞いているしかなかった。
さてどうしようか…と思ったところに、もう1人の利用客がやってきた。自分との兼ね合いでダブル案件になってしまうが…
流石に並んでいる方を優先させ、通話の終了後+もう1人の利用客の対応を待って特急券の発券をしていただく。
「すいません。フジサン特急の指定席に座りたいんですが…」
「はい。お座席どちらにしましょう。先頭にします?それとも空いている方にします?」
「あ、空いている方でお願いします…」
流石にゆっくりさせて欲しかった。自分の希望を聞いてくださると、そこからは手際の良い操作で機械に向かって座席を押さえてくれた。
「はい、では2号車の(席番)でお取りしました…」
なんとかして空いている座席に座れそうだ。
列車の記念撮影をしようと、ホームの先端に向かう。
先客として、何人か若い男性たちがいた。
声を掛けて間に入る。
構えている間に駅の構内放送が流れてきた。乗車予定のフジサン特急は、数分ほどの遅延をしているそうだ。
そしてしばらくして、列車がやってきた。
こちらも誇り高きOBだ。
小田急線を松田まで走行し、東京の副都心から御殿場線へ乗り入れて沼津まで走った『あさぎり』である。
こちらは『フジサン特急』として165系から改造された2000系電車の後継を務めた形態となった。
日差しの中にやってきたもう1人のOBに乗車して、再び富士山に挑んでいく鉄道に乗車していこう。
健在なりし面影
列車に乗車していく…のだが、何処からやって来たんだという位に外国人の乗客がこの駅にも集っていた。
列の中に並んで乗車する。
車内に入ってデッキを見た瞬間、
「あぁ…この車両は紛れもないRSEだ…」
と図鑑などで読んだ感覚が蘇ってきた。
図鑑や鉄道誌などで、この贅を尽くした90年代調の内装を見てきた。残念な事に、小田急線と御殿場線の直通運用時代には出会えず乗車できずだったものの、そこには371系と共に御殿場線を盛り立てた花形列車の姿があった。
車内の写真がこちら。
空席を重視して発見したので、車内は当然空いている。指定席と名がつくだけで、こんなにも車内が広々するとは新鮮なものである。
車内は記したように、いかにも90年代の色を尽くした雰囲気を演出している。
走っている場所が富士山の反対側である事以外は、車両に大きな変化は全くない。
車両の案内表示器がこちら。
相方のように富士山の反対側で対面していた371系改造の8500系は木をふんだんに使った上品な内装だったのに対し、こちらのフジサン特急は富士急行線のキャラクターである『フジサンクン』を中心とした富士山キャラクター達が散りばめられている。
小田急時代の内装の中で唯一の異彩を放っている場所であり、そしてキャラクターがビッシリと埋まっている姿は、乗客によっては落ち着かない内装であろう。
この富士山キャラたちの中に次駅案内などが表示され、旅の案内の補助のような役割を彼らは担っている。
車両の形式プレートにも富士山キャラたちは健在だ。
この車両は小田急時代には20000形の形式を授かり、同時に『RSE』との名称を冠していた。
富士急行に転職してからは8000系と形式を変更し、多種多様な富士山キャラたちとの生活を送っている。
しかし至る場所に富士山キャラたちが居ると、本当に先述のようにして落ち着かなくなってしまうだろう。
ちなみに8000系導入の際にはこの富士山キャラたちをキャラ選挙で決定し、50山に絞ったのだという。
そしてこの形式銘板の下にはしっかりと自己紹介のようにして『フジサンクン』の名称が記されている。
ちなみに個人的には落ち着かない…というより、笑いの感情が勝ってくる。
ちなみにどれだけの富士山キャラがいるのかというと、
これだけの数が存在している。
富士急行のHPの中ではこの大量の165山あるキャラクターの全てを紹介しているので、興味がある方は是非。
車内デッキにもこうして表示され、しかも丁寧に解説が記されている。
ちなみに彼ら彼女らを数える際には、人(にん)ではなく山(さん)と数える。
165山(さん)も大量に居ると、数えるのも一苦労である。後ほど、車両の停車時に富士山キャラを掲載しよう。
小田急時代の内装に懐かしさや感動を覚えているうち、急にその雰囲気に『ひょっこり』出てくる姿は、何処となくシュールであり。RSEがフジサン特急として転職した本当の現実を見せつけてくる。
車両の混雑には少々余裕があったので、車両を観察しにいこう。
ちなみに最後尾の自由席は満杯の状態になっており、流石にここでは指定席料金の課金に成功した一安心を感じる。
富士転職
御殿場線から富士急行に譲渡された…それは即ち、活躍場所のコンバートのようなものである。
野球で言えば、バリバリのスラッガータイプで安打や本塁打を何本も打っていたのに、送球速度や遠投の実力を買われて投手に転向するようなものである。
そんな富士山の麓で生きる事を誓ったような『生涯富士山』のような20000系RSE…ではなく8000系フジサン特急だが、車両を見ていると時々車両の改造された形跡が残る。
流石に大胆な改造をされた富士山ビュー特急と比較すると…だが、シンプルに乗客を着席制で輸送し、少しだけ富士急行向けにイジるだけなので実に簡単である。
ちなみに写真は自分の着席した座席部分の写真。
ここにも富士山キャラが存在している。
窓側のブラジャーを付けた富士山は『セクシーフジ』である。
通路側、こちらのクジラのような富士山はクジラ…ならぬ『フジラ』である。
セクシーフジ…に関しては
『イケメン登山者を見かけると声を掛けてくる』という設定がある。
フジラ…に関しては
『河口湖に生息しており、遊覧船の前に現れて突然潮を吹く』
という設定がある。
他にも様々に165山ごとの設定があるので、探してみると面白いかもしれない。
列車の先頭、1号車に移動した。
こちらも面影だけで言えば、なんとかしてRSE時代の面影を残しているような雰囲気であるが一部の座席は固定されたり、フリーのソファなどに改造されているようだ。
少しだけ行ってみるとしよう。
まず、1号車に入ってすぐにフリースペースのソファが目に付く。
この部分には座席番号が振られていないようだったので、ラウンジやグループ利用を想定した内装なのかもしれない。
写真を撮影したこの時は、この場所に座っている乗客を確認しなかったが実際はどのようにして利用するのが正解なのだろう。
特にフリースペースと座席を隔てたような区画はなく、そのまま座席を撤去して追加で増設したような状態になっている。
1号車の座席はRSE時代…そして自分の乗車している車内と全く変化がないので、ここでは変化のある先頭部だけを記していこう。
先頭部は座席を撤去して、フリースペースとなっている。
そして車両番号の銘板の横にはRSE時代に受賞した勲章のような物である『鉄道友の会 ブルーリボン賞』の銘板が貼られている。
小田急の特急車両…ロマンスカーでは初代のSE形以降大半の車両が受賞している伝統的な賞である。
RSE形がこの『鉄道友の会 ブルーリボン賞』を受賞したのは平成4年。小田急ロマンスカーとしてはJR東海への直通に向けて大胆に手を加えた車両であったが、キッチリと歴代の華である勲章を獲得した。
なお、写真に映っているように写真は行き違い待ちの間に撮影したものである。
特急とは言っても、単線区間の中でありかつ路線規模も小さいので、休息や観光の一手段として利用するのが相応しい可愛い列車だ。
車両の看板設備…
としてはこの運転台越しに前面の景色を楽しめる眺望重視のフリースペースがあるだろう。
この区画は165系改造の2000系時代には展望席として先着制の争奪必須な座席であったが、RSE改造の8000系では乗車した誰もが運転席越しの風景を楽しめるようにフリースペースとして改造されており、旅の中に大きな演出を付与している。
371系・20000形共に転職してもイチバンの売りである眺望を損なわなかった事は、双方の車両の前職時代を知り、憧れた鉄道ファンとしては嬉しいものだ。
車両の売りとなっている前面展望の区画はこのように整備されている。
テーブルが設けられ、向かい合わせのソファで眺望と同時に、団欒も大事にした設計だ。
小田急時代は贅を尽くした観光意識、そして副都心である新宿へのアクセスを重点に置いた質感の演出と活躍した同車だが、富士急行に転職し、富士山の北側を走行する事になってからは時代に即した演出、そして更に観光客に近い距離感を盛り上げる列車として第二の生涯を歩んでいる。
この展望フリースペースであるが、写真の中。少年が操作している部分にはダミーの運転台が設置されている。
実際見た感覚では(操縦はしていない)、TOMIXやKATOなどのメーカーから発売されている、リアルな大きさの鉄道模型コントローラーに近い感覚があった。
再び車内観察に戻ろう。
富士の北側を沿って
都留文科大学前から乗車したフジサン特急の旅は、河口湖方面に向かってもう少し続いていく。
車内は何度も記しているように、小田急時代の余韻に浸っている間、急に富士山キャラが出没しその余韻を一気に掻き消す。感じる人によっては色々あるだろうが、自分の中では面白い演出として体感できた。
写真はデッキ部分のドア開閉を注意する案内。
折り畳みで開くタイプのドアなので、この注意喚起にも富士山キャラが混ざっているのだ。最早客室乗務員の手伝いをしているような空気すら感じる。
なお、この写真のデッキ部分の他。トイレなどにも富士山キャラが混ざっている手の具合であった。
本当に探しているとキリがないのだが、車内移動の暇つぶしなどにオススメである。
しばらくして、少しだけ腹が空いたので土産に買ったコーンスナックを開封して食する事にした。
三つ峠を過ぎてゆくと、車窓に富士山が大きく広がっている。寿までの短い駅間になるが、この駅間が最も綺麗に沿線で富士山を望める区間なのだという。
そのまま列車は富士山を魅せるようにして徐行し、ゆっくりと上り坂を踏み締めて河口湖に向かっていった。
少しすると、下吉田到着を告げる車内放送が鳴動する。体感的には河口湖に向かう方が早く到着したような感覚である。
この駅でも多くの観光客が乗降する。
フジサン特急は盛況のままに下吉田を発車し、富士山に向かって再び歩みを始めるのであった。
三つ峠をはじめ、沿線から望む富士山の光景は走行する場所が静岡から山梨に変わっても残る、RSE形あさぎり由来の『生涯富士山』なる称号に十分すぎるものだった。
スイッチバック
下吉田から富士山までは、かなり早くの時間で到着する。
下吉田を発車すると、月江寺を通過してスグに到着だ。
車内の放送に従って纏めた荷物を抱えて下車する。快晴の天気の中、列車は行き止まり式の駅で小休止である。
行き止まり式の場合は…
この駅から先の進行方向が辿れなくなる。さて、列車はどうやって河口湖まで行くのだろうか。
その答えは単純で、
『線路を折り返して』
走るのである。所謂、スイッチバック方式…というものだ。
通常は急勾配を走行する際に用いられる方式だが、やむを得ない建設の事情でスイッチバック方式の構造を採用している駅も多い。
少し逸れるが、連載内ではスイッチバック方式の駅を幾つか記しているのでまた皆さん是非。←宣伝かよ
ここまで乗車したフジサン特急は、進行方向を変えて富士急ハイランド、河口湖と走行していく。
車両も先頭に立つ富士山キャラの顔が変化し、車両の方向転換が完了した事がよく分かる。
乗務員交代を兼ねた方向転換の最中に、富士山キャラを幾つか。
写真のキャラは『フジーマン』と呼ばれる、富士山の平和を守る設定があるキャラクターである。
こちらは『フジ運転手』というファン公募にて決定されたキャラクターである。
しっかりと富士急ハイランドのマークも帽子の中に混ぜており、芸が細かい。
この金色に輝く富士山は『ムッシュフジ』。
プレミアムな富士山で、決して威張らないのだそうだ。
こちらは中々無理矢理にも感じるかもしれないが、この集団で1つのキャラとして成立している富士山である。名前は『FJKフジ』というものだ。
ご当地アイドルの設定が入っており、真ん中のセンターを狙うさながらA◯Bのような富士山集団である。
はいはいはいはい。自分の推しですよ。推し。165山あるうちの1つ、富士山キャラで推しを挙げてって言われたら確実にコレ行きます。
名前は『フジテンボー』。
ギョロっとカエルのように突き出した目が印象的な富士山。
360度の視界を持ち、山梨県に静岡県となんでも見渡せる富士山。探し物に日本一まで、全てなんでもござれな富士山である。
個人的にはこのキャラクターの全てを振り切ろうとしている感じが大好きなのである。
何処かこう、アーティスティックに飛ぼうとしている感じ。(分かるかなぁ…)
方向転換するフジサン特急の側面を撮影する。
車両は窓位置を少々高めに設定したハイデッカー構造であり、車両からの眺望を徹底的に意識している。
富士山の北側でもその眺望は如何なく発揮されていた事だろう。
しかし、小田急時代の姿と比較するとかなりの変貌になっている。
全身に富士山キャラたちを貼付し、宣伝カーのように走り回る姿は何処かシュールだ。
富士山駅のガラス張りの建物が、車両のかつての活躍場所であった小田急線の都心を連想させる。
RSE時代の面影を出せるような撮影もいつかしてみたいものだ。
その後、方向転換してフジサン特急は河口湖方面に向かって発車していった。
この方向転換までの時間は、撮影に車両の観察に充てられるので鉄道ファンにはサービスな時間になるだろう。
少しだけ写真は暗くなってしまったが、見るようにして撮影した記録を見てみると、完全に小田急時代の幻影が感じられる。
371系の純白に対比して、爽やかな塗装だったその姿は、図鑑の中での憧れであった。
河口湖まで、残り少ない道を歩んで行く。
終点はもうすぐそこだ。
おまけ フジサン特急、前職
何度も記しているように、フジサン特急として活躍する8000系はかつて小田急線とJR東海御殿場線とを結ぶ特急『あさぎり』として活躍した。
その走行ルートは新宿から松田までを小田急の線路を走行し、松田からは連絡線に入ってJR東海の御殿場線に入線して沼津まで乗り入れる…というものだった。
現在、そんな前職となった『あさぎり』の姿をしている20000形は神奈川県は海老名市の『ロマンスカーミュージアム』の中に保存されている。
活躍していた前職時代はそのままの状態になっており、爽やかなブルーのテイストも健在である。
車両は御殿場線への乗入れで主に活躍したが、一部は小田急線の内部で完結する運用にも就業していた。
富士山ビュー特急として転職し、現在でも活躍する371系(8500系)は1編成1本だけの存在であったがこちらの20000形(8000系)は2編成2本が存在した。
そのうちの1本は写真のように
・編成一部を保存
としており、もう1編成がこの記事内で乗車したように
・フジサン特急として富士急行に譲渡され、8000系に改番の上で活躍している
という現状である。
かつての姿で余生を暮らしている海老名の仲間を記録している自分にとっては、この出会いで全ての編成に出会った格好となる。
かつての姿を残す仲間と、転職してその姿を変える仲間。互いの小田急20000形を見てみると非常に面白い。
という事で少しだけオマケの記事なのでした。
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