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グーグル従業員に学ぶ「社員アクティビズム」~経営判断を人権視点に変える
[最新ニュース]#アクティビズム #物言う社員 #労働者の権利 #責任あるビジネス #ガバナンス
従業員が会社の経営判断の見直しを求める「社員アクティビズム」の動きが、Black Lives Matter運動をきっかけに米国企業で広がっているという記事が、今月初めに日経新聞に立て続けに掲載されました。
その中で、グーグルの従業員がCEOのサンダー・ピチャイ氏に対して、警察への情報サービス提供中止を求める1,600名の署名入りの書簡を出したことが紹介されています。実は、グーグルの従業員有志はこれまでも会社に対して、変化のための積極的な行動、「アクティビズム」を展開しています。
2018年には、国防総省の戦闘用無人飛行機へのAI技術提供に反対したり、社内のセクハラに抗議する集会を世界中の拠点で展開したり、中国での検索サービス再参入を阻止するといった行動をとっています。
人権に対する会社の価値観に反すると抗議
雇用主である会社が下した経営判断に従業員が反対することで、決定をくつがえすことができるのだと驚かされたのは、人権NGOのアムネスティ・インターナショナルがグーグルの従業員といっしょに展開した2018年の#DropDragonflyキャンペーンによってでした。
このキャンペーンは、グーグルが進めていた中国向けの検索サービスプロジェクト「ドラゴンフライ」の中止を呼びかける署名運動で、中国政府による検索結果の検閲を可能にして市民監視を助長するとして、最終的には700名を超えるグーグル従業員が署名し、アムネスティと共同で声明を出しました。
グーグル従業員のプロジェクト反対の理由は明確で、ドラゴンフライはユーザーの基本的権利を尊重するというグーグルの価値観に反するというものでした。プロジェクトは最終的に停止となりました。
"Our opposition to Dragonfly is not about China: we object to technologies that aid the powerful in oppressing the vulnerable, wherever they may be."
ドラゴンフライプロジェクトに反対するのは、中国だからということではない。それがどこであれ、弱者を抑圧する権力ある者を手助けする技術だから反対するのだ。
"Many of us accepted employment at Google with the company’s values in mind, including its previous position on Chinese censorship and surveillance, and an understanding that Google was a company willing to place its values above its profits. "
わたしたちの多くは、中国の検閲・監視に対してグーグルが以前とっていた立場(筆者注:2010年の中国での検索サービス停止)のような価値観を胸に、グーグルは利益よりも価値観に重きを置く会社であると理解して、雇用関係を結んでいる。
(出典:We are Google employees. Google must drop Dragonfly./日本語は筆者による仮訳)
社員アクティビズムは企業にとってプラス
グーグルはもともと従業員が会社の事業や方針に対して声を上げることを推奨しています。ユーザーの信頼を裏切らないという会社の価値観に反することがあれば、CEOや経営幹部でさえ声を上げる対象になります。
多くの企業では、会社の価値観に沿った行動を求める企業行動規範への誓約を求めます。グーグルの従業員が会社の価値観に基づいて行動しているように、従業員は日々の業務でその価値観を体現することを期待されます。
組織の決定がそうした価値観に沿うものでないとしたら、自社の価値観が最もよく理解できている従業員が声を上げるというのは、健全な組織統治のあり方と言えます。企業行動規範には人権の項目が含まれていることが多く、人権侵害の予防や軽減にもつながります。
声を上げる従業員を守るのは企業の責任
従業員は企業にとって最も身近で最も重要なステークホルダーです。組織の構成員として、日々の業務をこなし、事業を推進しています。同時に、従業員は雇用主のもとで働く労働者であり、労働者の権利を保持しているライツホルダーでもあるのです。
従業員は人権を侵害する立場にも侵害される立場にもなりうる存在です。従業員が事業を通じて侵害する可能性のある人権を知り、自身の権利を知ることは、企業が責任あるビジネスを行うには欠かせません。グーグル従業員のアクティビズムはこのどちらの視点も携えています。
企業に求められるのは、従業員による人権侵害を防ぎ、従業員を人権侵害から守ること。そのためには、従業員を対象とする人権研修の実施や、報復や不利益を受けることなく声を上げることのできる通報・相談窓口の設置が重要となります。こうした施策自体にも従業員の声が反映されることが期待されます。
自社の施策が従業員が声を上げることを妨げていないか、あらためて確認してみる必要があります。企業の人権尊重の責任については、こちらに詳しく書いています。
Social Connection for Human Rights/ 土井陽子