学校文化を変えるのではなく、仲間を増やすことで環境をつくる|スクールソーシャルワーカー 伊倉真紀さん
こんにちは。伊倉 真紀(いくら まき)です。私は、小学校で教員として働いた後、子育てなどの期間を経て、現在はスクールソーシャルワーカー(以下、SSW)として働いています。
教員もSSWも、何か原体験があって「これがやりたい!」「ここを目指したい!」という思いでなったわけではなく、これまでの出会いやタイミングを大事にしてきた結果です。
ただ、これまでの過程は決して順調と言えるものではありませんでした。
子どもたちに精一杯向き合うも体調をくずしてしまった教員時代
教員時代は忙しすぎて、自分の意思でアクションを起こしていることを実感することもなく、達成感も満足感もないままに仕事をしていました。大学卒業直後に突然39名の学級担任になり、実績もないまま「先生」と呼ばれ、自分より年上の保護者に敬語を使われる環境に居心地の悪さを感じていました。ストレスで食欲はなくなり、体重もかなり減ってしまいましたが、それでも毎日朝から晩まで通い続けました。
しかし、ある日、とうとう倒れてしまいました。国の大きな研修に県代表で選出され長期出張をし、そのまま体調を崩して入院。さらに悪いことは続きます。入院中に担任をしていたクラス内で大きないじめが発覚したのです。
現場に復帰後は、子どもたちに必死に向き合いました。子どもたち自身で解決できるように話し合いを重ねました。そんな努力の甲斐もむなしく、担任と子どもが不在の中、管理職と保護者が集まり、この問題への対応は一方的に終わってしまいました。
これらの対応に疑問を持ち、無力感を抱えていた私は、ある日気づいたらベッドから起き上がれなくなっていました。
そんな出来事の後もなんとか教員を続けましたが、数年後の結婚を機に、しばらく学校現場を離れました。
「全部一人で抱えなくていい」と気づいた子育て期間
結婚後は、発達障害の勉強会や、母親当事者の会などを開いて活動していたため、家にいろんな人が集まるようになりました。いつしか生きづらさを抱える人たちが心の奥底にある重たい荷物をおろすような場所になっていました。
私はいわゆるヤングケアラーとして、親のことを考えながら生活をしていたことから、子育てや家庭の問題で苦しんでいる人の思いが想像できます。また、自分が大変だったときのことも隠さずオープンにしていたので、当事者に近い立場から「無理しないでやっていこう」と声をかけていました。
特別なことをしているわけではなく、「一緒にいる」「一緒に泣く」「ただただ、じっと耳を傾ける」。私がやっていたことはそれだけでしたが、そうすることで、話している側も少しづつ楽になっているようでした。
私自身もいろんな人に助けてもらいながら、チームで子育てをした感覚があるので「全部一人で抱えなくていいんだ」と実感することができました。
この教員を辞めた後の子育て期間を経て、起こった問題を個人の責任にせず、その人が置かれている環境に目を向け支援をする人が学校に入ると、子どもも先生も保護者も幸せになるだろうという気持ちが育ってきました。そしてこの時期に、精神保健福祉士の資格もとりました。
しばらくして学校現場に戻ることになるのですが、きっかけは紹介でした。子育てから少し手が離れたときに、ある自治体の教育相談の人員として働き、SSWの欠員が出るということで校長に勧められ、20年近くたって学校で再び働くことになりました。
学校で仲間を増やし、子どもの支援につながる環境作り
SSWとして学校に関わるようになってから、日本スクールソーシャルワーク協会の基本姿勢をとくに大切にしています。
また、私自身の視点として、どんな子どももかけがえのない存在として、可能性を信じ、問題を個人のせいにせず、社会との関係で考えます。環境を変えることで、子どもの感じる苦しさを軽減し、よりよく生きるため、ともに考えることを大切にしています。
これらのことを大前提に働いているので教員の頃の忙しさはなくなったものの、非常勤で学校に入る難しさを実感しています。今の立場では学校での発言力はなく、教員をやめなければよかったと思うこともあります。
たとえば、支援が必要な子どもがいても、指導で解決をしようとする流れが強く、支援の必要性が伝わらないことがあります。先生方はみんな忙しいため、支援に関する情報は読んでもらえず、子どもたちのことを話そうにも教員の輪に入れないこともしばしば。教員以外の立場から学校文化に馴染むことは想像以上に大変でした。
そのような中、心がけていることは、学校の中で仲間を増やしていくことです。
子育ての経験も活かしながら、コミュニケーションを取る際は質問攻めにせず、相手の物語を通じて問題解決を見出す丁寧な対話を重ねるアプローチをメインにやっています。
いきなり正論をぶつけたり、考えの違う人を変えようとするより、一人ひとりを尊重したコミュニケーションを取りながら仲間を増やしていくことで、自分の考えも理解してもらえるようになりました。SSWとして学校で仲間を増やし居場所をつくることは、支援が必要な子どもに会うための大切な手段です。
ただ、これは特定の学校に勤務する配置型だからできることだと思っています。出張や巡回による派遣型だと関係性を築いていくことはとても難しいです。子どもたちに支援が届くよう、SSWの常勤化など教員と連携しやすい環境を望んでいます。
「声」を安心してあげられる場所になってほしい
私は今後、学校を変えたいというよりも、先生たちに楽になって欲しい気持ちが強くあります。
自分自身が体調を崩してしまった教員時代から、SSWとして学校に復帰した今、現場が全然変わっていなかったことに驚きました。このままでは苦しいと感じる人は減りません。
学校に変化を求めようとすると頑なになってしまう人がいるのは、個人で責任を追わなければならない文化が背景にあると思います。変えようとする人だけでなく、変えたくないと思っている人にとっても、苦しい環境なんだと思います。
このような背景によって、学校では「声」はあげにくいものとなっています。学校は変わらないと諦めて去ってしまう人がいるのは悔しいので、希望が持てるように声を上げられる場所があるといいなと思います。School Voice Projectには「声」を安心してあげてもいいのだと思える場所になってほしいですね。
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(取材・文:高野 雅子 編集:建石 尚子)