【読書録】『影の地帯』松本清張
今日ご紹介する本は、松本清張の長編推理小説『影の地帯』。
私は子どもの頃から松本清張の推理小説が大好きで、彼の作品は片っ端から読んできた。そのなかで、つい最近まで未読だったのが、本作品『影の地帯』だ。
先日、ひとりで古い温泉宿に泊まっていたときのこと。夕食後、ふと立ち寄ったお宿の図書コーナーで、ボロボロのこの文庫本を、たまたま見つけた。
「あれ、これは読んだことがあったかしら?」と思って手に取ったが最後。700ページを超える超大作を、夜中まで何時間もかけて、古びた和室の畳の上で、一気に読み切ってしまった。大好きな温泉に入るのも忘れるくらい、没頭した。
50年前の作品なので、時代背景は古びているものの、人間の感情や行動は今も同じで、ぐいぐい読ませる。一気に別世界の物語へ引き込まれ、日常のストレスや雑事などを、完全に忘れることができた。清張お得意の、壮大なエンターテインメント作品だ。読書で気分転換をしたい方にはうってつけの一冊だ。
(以下、ネタバレご注意ください。)
主人公は、カメラマンの独身男性、田代。物語は、九州から羽田に向かう飛行機の機内から始まる。田代は、窓から見える美しい富士山を撮影しようとして、別の乗客である美女と、その連れの小太りの男と、短い会話を交わした。その後、田代は、彼らと何度も不可解な偶然の出会いを繰り返す。そして、不可解な出来事に遭遇し、謎を解き明かそうと行動して、大きな闇に飲み込まれていく・・・。
華やかな銀座のバー。信濃路の美しい湖。石鹸工場。木箱。カンナくず。次々に起こる失踪や殺人。身の危険を知らせる警告のメッセージ。利権をめぐる政治的対立。謎が謎を呼び、脳内をかき乱すミステリーだ。
読了してストーリーの全貌を知ってしまうと、「ちょっと、できすぎじゃないの?」とツッコミたくなるところもある。しかし、最後まで読者をドキドキハラハラさせ、話の展開にくぎ付けにする清張の筆力には、いつもながら脱帽だ。
この本の特に凄いのは、死体の隠匿の方法だ。あっと驚く意外なアイデアだった。現代でこんな方法が通用するのかは分からないが、確かにこの方法がうまくゆけば、死体が見つかることはまずないだろう。良い子は決して真似をしないように・・・。
なお、本作品をアレンジしたドラマが、2015年にTBSで放送されたらしい。こちら見たことはないのだが、機会があれば、是非見てみたい。
ご参考になれば幸いです!
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