【グルメ】「慈久庵」のせいろそば(茨城県常陸太田市)
今年最後のグルメレポ。大晦日の今日は、やはり、蕎麦をとりあげるべきだろう。
今日は、いつもの、東京シリーズでも大阪シリーズでもない、茨城県の蕎麦の名店、「慈久庵」をご紹介。
ある晴れた冬の日の週末、茨城県の山の方に、蕎麦の名店があると知り、興味を持った。食べログの百名店にランキングしている。
今まで半世紀生きてきて、茨城県に出かける機会は、全くなかった。しかもこのお店は、公共交通機関のアクセスが極めて悪く、東京からだと長距離ドライブとなる。場所は、茨城県の山奥の観光名所「竜神峡」「竜神大吊橋」のすぐ近くにある。(ちなみに、この竜神大吊橋は、バンジージャンプの名所らしい。)
そして、私は、車の運転が全くダメダメな、筋金入りのペーパードライバーだ。そこで、自家用車を持っている友人をたぶらかして、アッシーを確保した。
いざ、美味しい蕎麦を求めて、田舎道をひたすら走る。クネクネとした山道の途中に、突然、広々とした、小洒落たコテージのような建物が現れた。駐車場にはそれなりの広さがあるが、12:00過ぎに到着すると、既に満車に近い状態だった。バイクで来ているお客さんもいた。
そして、入り口の扉の真ん前に、この看板が、ドーンと鎮座していた。
「すべての作業を一人で行います。どうぞ、時間と心にゆとりをお持ちになってお入りください。」
これが、このお店の特徴をよーく物語っていた。
私は、20年以上にわたり大阪に住んでいた。多くの大阪人は、いわゆる「いらち」(※大阪弁で「せっかち」の意味)だ。私もその例にもれず、典型的な「いらち」である。
そんな私は、お客に対し、「時間と心にゆとりを持てよ」と堂々と言ってのける、この看板を見て、一抹の不安を抱いた。
受付エリア。ここで、既に2組4人のお客さんが待っていた。食べログによると、いつもすごい行列らしいから、今日はまだマシなほうだろう。コロナのせい(おかげ?)かもしれない。待っている間に、さらに3組くらいお客さんがやってきた。
こちらが店内の様子。コテージのような建物を和風にしつらえた、とても素敵な内観だ。
それにしても。
それは、大変長い時間であった。はっきり言って、忍耐のひととき。
単に待つだけならまだ良しとしよう。受付エリアも、店内も、お客さんはそれなりに多いのだが、とても静かなのだ。
ここは、大人の蕎麦屋さんだった。お客さんは皆、おひとりさまか、大人2〜3人。子ども連れは皆無。年齢層は高め。裕福そうな客層。雰囲気的に、静かに黙って待っていなければいけない感じなのだ。これは、いらちでお喋りな、大阪のおばちゃんには、かなりの苦行だ。
待ちながら、オペレーションを観察する。ご主人おひとりで、注文を取り、蕎麦をゆで、天ぷらを揚げ、テーブルを拭き、配膳し、会計をする。本当に、すべておひとりやっているので、とてつもなく、時間がかかる。しかも、ご主人の動作は優雅であり、ゆったりしている。決して、ドタバタと走り回ったりしない。テーブルが3つほど空いているのに、待てども待てども、席に案内されない。
あまりに暇なので、受付エリアに置いてある、数々のグルメ雑誌を読む。沢山の雑誌に取材され、大きく特集されている。このお店は本当に有名なようだ。
約30分以上待った後、ようやく席に案内された。メニューを開く。また少し待って、ご主人が注文を取りに来てくれた。私は、せいろそばと野草のてんぷら。同行者は、葱天せいろをオーダー。
ここからが、また、長丁場だった。
待って、待って、待つ。
することがないので、窓からの景色を眺める。「山がきれいだね~」などと、差しさわりのない話をする。シーンと静まりかえった店内で、かなり離れた厨房から、パチパチと、天ぷらを揚げる軽妙な音が聞こえてくる。
ちなみに、この日の同行者は、大変ノリの良い友人だ。この友人とは、いつも、ガハハ、ギャハハ、と、大きな声で笑い、しょ〜もない話で盛り上がる。しかし、このお上品で、ピンと空気の張りつめた空間では、とても、いつもの調子で話すことはできない。
会話が、次第に少なくなる…。空腹もピークに達する…。さすがに、ちょっと辛くなってきた…。
そして。
長らくの修行の後、ようやく、ご褒美がやってきた。
美しいせいろそば。白く透き通るような色。とても柔らかく、箸で簡単にぷつぷつと切れる、繊細さ。とにかく、上品。蕎麦本来の味とはこういうものか、と感じ入る。(ちなみに、量も上品。次に行くときは、大盛りにするかも。)
アングルを変えて、上から撮影。
そして、野草の天ぷら。
聞いたことのない野草が沢山入っている。ご主人が、野草の名前を一つ一つ教えてくれるのだが、全く覚えられず、聞いたそばから、頭から抜けていく。その辺の落ち葉のような形の野草もあるのだが、カラッと美しく揚がっていて、適度な苦みがあり、オトナの味だ。蕎麦と、とてもよく合う。そして、添えられたオーストラリア産の塩ともマッチする。こだわりが感じられる。
同行者が頼んだ葱天せいろの、葱の天ぷらを少し分けてもらったが、これまた美味だった。
結局、この日は、トータルで約2時間にわたり、休日の昼の時間を、この山の中の蕎麦屋さんで過ごした。
蕎麦が提供されてから、食べ終わるまでの時間はあっという間だったから、殆どが待ち時間だったと思う。都内からの所要時間を含めると、1日仕事である。
でも、これはこれで、とても良い思い出となった。普段の私のランチは、ものの15分で済ませる慌ただしさだから、見方によっては、とても贅沢な時間だった。
この、山の中のロケーションといい、ご主人のこだわりといい、蕎麦やてんぷらのクオリティといい、それだけの時間をかけて訪問するだけのことはある。既にそば通には有名なお店のようだが、お蕎麦好きの方には、おススメ。ただし、くれぐれも時間に余裕を持って!
今日、年越し蕎麦を楽しまれる方も多いのではないでしょうか。読者の皆さん、どうぞよい新年をお迎えください!