【読書録】『鬼平犯科帳』池波正太郎
今日は、私の大好きな時代小説シリーズ、池波正太郎の『鬼平犯科帳』。池波正太郎の代表作として有名なので、ご存じの方も多いだろう。
実在の人物である、火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)長官・長谷川平蔵(本名は長谷川宣以、はせがわ・のぶため)が主人公だ。罪人を厳しく取り締まることから、「鬼の平蔵」と恐れられ、略して「鬼平」というあだ名がついた。私が持っているのは、上の写真の文庫版で、全24巻。短い捕り物のストーリーが中心だ。
中村吉右衛門主演の、フジテレビのテレビシリーズも大人気だし、こちらも大好きだ。ケーブルテレビの「時代劇専門チャンネル」でも、長年、繰り返し放送されている。
今日は、私がなぜこのシリーズが好きかを書いてみたい。
素敵ポイント1:鬼平の「理想の上司」キャラ。
私の記憶が確かならば、以前、何かのアンケートで、鬼平が、「理想の上司」に選ばれたことがあったと思う。小説で脚色されているとはいえ、江戸時代の人物が、現代人から、理想の上司とされるというのは驚きだ。鬼平は、その呼び名のとおり、犯罪者に対する取り締まりや処罰は厳しいが、部下に対しては信頼をもって接し、弱者や正直者に対しては、優しさやいたわりを見せる。主人公鬼平の、厳しさと同居する情に溢れる優しい性格が、このシリーズの人気の一番の理由なのではないかと思う。私も、女性ではあるが、鬼平をロールモデルとし、鬼平のような上司になりたいと、ひそかに思っている。
素敵ポイント2:鬼平の愉快な仲間たちの存在。
このシリーズの主要な登場人物、特に、鬼平のまわりにいる仲間たちは、皆、愛すべき人々だ。妻の久栄。「うさぎ」というあだ名の忠吾などの、鬼平の部下たち。若いころの剣友の左馬之助など。そして、特に、たくさんの密偵の存在がユニークだ。もともと盗賊だったが、改心して、鬼平に仕えることになった者たちだ。彦十、粂八、五郎蔵、おまさ。みな、鬼平を「お頭(おかしら)」と慕い、愛嬌があり、憎めない。江戸っ子特有の小気味良い、テンポの良い会話を読んでいると、愉快な気分になる。そして、この仲間たちが、鬼平と揺るぎのない信頼関係で結ばれていることに、心が熱くなる。
素敵ポイント3:勧善懲悪と人情のストーリー。
基本的には、盗賊を取り締まる、勧善懲悪の短編小説なのだが、それにまつわる多様な登場人物の奏でる人間模様が、とても深く、魅力的だ。親子関係、男女関係、師弟関係、主従関係、仇の関係。旅の道連れや、居酒屋で出会った夜鷹(売春婦)など…。淡々とした文体の余白に示唆されている、登場人物の感情の交錯が、もどかしく感じさせたり、心をじんわり温かくさせてくれたりする。人間関係の機微は、江戸時代も現代もそう変わらないかもしれない。だからこのシリーズが今でも人気なのかもしれない。
素敵ポイント4:味わい深い江戸文化の描写。
東京に住んでいると、馴染みのある身近な地名が沢山出てきて、歴史を身近に感じられる。両国周辺や隅田川などはとてもよく出てくるが、目黒や品川など、少し離れたエリアも舞台となるし、京都や奈良にまで長い旅をすることもある。交通機関がない時代で、基本的に徒歩で旅をしていたのだから、すごい。池波正太郎の文体はシンプルで読みやすく、城下町の様子や、長屋での人々の会話や動作の表現もいきいきとしていて、イメージがありありと浮かび上がってくる。特にグルメの描写はリアルだ。「五鉄」の軍鶏鍋(しゃもなべ)や、「さなだや」の蕎麦など、たくさんの粋な食べ物が登場し、食欲を誘う。
この素晴らしい小説を、是非多くの方に楽しんでいただきたいです。
ご参考になれば幸いです!
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※池波正太郎のグルメ本についての過去の記事(↓)もどうぞ!
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