源氏物語 若紫「小柴垣の垣間見」文法解説テキスト版③
この記事は、YouTube動画『源氏物語Su-分講座 文法編No.3 若紫より小柴垣の垣間見③』の内容を、文章&画像でまとめたものです。動画でなくテキストで読みたい方は、こちらをどうぞ。
そもそも「小柴垣の垣間見」とは
光源氏が、生涯の伴侶となる女性・紫上に出会うシーンです。いわば「運命の出会い」です。
「小柴垣の垣間見」あらすじを知りたい方は
この場面の内容をサックリ知りたい方は、こちらの動画をご覧ください。
もう一つ、注記の説明
以下の記事内では、①②という記号を使用しています。①は文法の知識、②は平安文化の情報を表しています。
本文:尼君、「いで、あな幼や。…
「あな」は、アア!とか、わあ!に当たる、感情の高ぶりを表す言葉です。この語のあとにつく形容詞は、尻尾(語尾)が脱落するという特徴があります。ですから「あな、おさな!(まぁ、なんて幼いの!)」です。さらに、溜息のような「や」がついて、尼君のやるせない気持ちを示しています。
「たまふ」「思す(おぼす)」は、相手への敬意を表す尊敬語です。40代の女性が身内の女の子10歳に話しかけている状況ですが、互いにフル敬語つかうのが平安貴族です。
本文:罪得ることぞと…
平安中期は、仏教の影響がいや増す時代です。動物を飼って閉じ込めておくのは、仏教では「罪」に当たるよ、と尼君が女の子を諫める場面です。
「聞こゆ」は「言う」の謙譲語ですね。フル敬語です。
「ついゐる」は、「軽く座る」動作を表します。平安貴族がよく取る動作です。すべてに控えめ、抑制的を好む彼らなので、いきなりどっかり座り込むより、「ついゐる(ちょっと座る)」仕草を愛でました。この文では、幼い女の子(後の紫上)の動きなので、本人の意思というより体重の軽さから「ちょこんと座る」結果となった感じです。可愛いですね♪
本文:つらつき、いと、らうたげ…
女の子、のちの紫上の容姿を描写した文章です。「らうたげ」は見る人の主観がこもった言葉で、「可愛い・可憐・愛らしい」という意味です。
眉のあたりが「煙る(けぶる)」というのは、抜いていない天然の眉の、ぽわぽわした感じを表していますね。ノーメイクの象徴です。
「いはけなし(幼稚だ)」は、大人の女性への悪口として『源氏物語』によく出てくる語なんですが、ここは文字通り、「子どもらしい」という意味です。そのあとの「うつくし(小さく、愛らしい・可愛い)」共々、この女児の年相応の魅力を表しています。
本文:ねびゆかむさま、ゆかしき人かな
これは、その女の子に対する光源氏の感想です。子どもらしい可愛さに満ちた様子を見て、(成長していく姿を見たくなるような人だな)と思った訳です。…ここだけ読んでも、光源氏の恋愛指向がオトナ女性であることがわかる文章ですが、何か世の人は、彼を「ロリコン!」と言うのがお好きですね^^;
本文:さるは(限りなう心を尽くし聞ゆる人に…
光源氏の心に、「ただ一人の御方」がいることがわかる文章ですね。「無限に心を尽くし想い上げている方に、(この女児が)たいそう似申し上げているので、目が離せないのだなぁ」と気づいた瞬間、涙が落ちた…と言っています。
ちなみにこの時代、部屋が根本的に暗いし、女性はエチケットとして姿、特に顔を隠すし、なので、そもそも人が【基本的に見えてません】。ですからここで「とってもそっくり!」と言っているのは、髪のボリューム感とか、頭の形とか、雰囲気とかのことです。
本文:尼君、髪をかき撫でつつ…
女児が、「髪を梳かされそうになると嫌がる子」であることが語られます。平安文学で「女性が髪の手入れを鬱陶しがる」って文章が出てきたら、キター!って感じです。
【たいそうな美人】+【究極のお嬢さま】!
であることのアピールです。この時代の美は、ひたすら髪の量&長さなので、「髪の手入れ?…ふぅ、辛いわ…」という場面は、
【アタシ、美人すぎて困っちゃう】
シーンだと理解してください。ついでに、庶民だとそんな長髪メンテできません(労働もできない)。つまり、問答無用に貴族のお姫さまで、そのうえ親・乳母・侍女なんぞがわらわらいる、身分ある御方だとわかる描写なのです。
本文:故姫君は、十ばかりにて…
「後れる(おくれる)」というのは、「先立たれる」という意味です。
上の図ではわかりやすく、系図で示しましたが、本来の形で物語を「聞いて」いた平安の読者たちには、この場面、何のことがわからなかったと思います(わからないからこそ、先を聞きたくなる…というシーンです)。
要するに、細かいことはよくわかんないけど、なんかこの女の子、訳アリっぽい…という状況です。
本文:ただ今、おのれ見捨てたてまつらば…
尼君が、「私が今、貴女を見捨て申し上げたら(つまり、死んでしまったら)、どうやって生きておいでになろうというの?」と泣き崩れます。…コテコテのシンデレラ・ストーリーになってきましたね。ヒロインはめちゃめちゃ不幸で可哀想な美女なのです。そこへ白馬の王子さま(光源氏)が通りかかって、今まさに目をとめてくれた…ってシチュエーションです。
本文:幼心地にも、さすがに、うちまもりて…
女の子(紫上)は、まだ幼稚で状況がよくわかりません、でも尼君があまりに泣くので(で、それが自分のせいだということを感じて)、
【さすがに】
沈み込んでいく、という場面です。ちなみに、紫式部センセは「さすがに」の使い方が巧みなので、『源氏物語』にこの語が出てきたら、それが示す心の動き、その繊細さ、要注目です。
本文:「生ひ立たむ ありかも知らぬ…
平安貴族、ココロが高まると歌い出します。尼君とその女房(侍女)が、尼君の病気の重態ぶり、遺される(であろう)女児の先行きを思って、悲しい和歌を詠み交わします。
ちなみに、和歌では人を何かに例えるのが定番です。この歌では、「若草」で女児を、「露」で尼君を表しています。このほかにも、「悲しい声で鳴く鹿…あぁあれは悲恋に泣くワタシ…!」とか、「冷たい強風…つれないアナタの心のよう…」とかもテンプレです。慣れないと理解しにくいかもしれませんが、
要するに【擬人化】
です。このシーンでも、「すくすく育つ若草(美しく健やかな女の子)」「一方で、今にも散って消えそうな露(重病の尼君)」と、イメージだぶらせて読んでください。
まとめ:本日読んだ箇所は
まず、過去記事である「小柴垣の垣間見①」「②」では、
①光源氏(白馬の王子サマ)がお散歩に出ました
②美少女の一行を見つけました
という所まで話が進みました。そこで今日の内容ですが、
・美男美女の出会い。…運命か⁈と思ったら、相手がコドモすぎました。
・でも、あの方に超ソックリ!
・聞いてたらこの子、なんか不幸っぽい、身より無いっぽい。
と展開してきた訳です。…コテコテのおとぎ話です^^;
お読みいただき有難うございました。「小柴垣の垣間見」文法解説、次回で最後です!
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