源氏物語 若紫『小柴垣の垣間見』文法解説テキスト版①
YouTube動画『小柴垣の垣間見 文法解説①』この記事は、YouTube動画『源氏物語Su-分講座 文法編No.1 若紫より小柴垣の垣間見①』の内容を、文章&画像でまとめたものです。動画でなくテキストで読みたい方は、こちらをどうぞ。
そもそも「小柴垣の垣間見」とは?
光源氏が生涯の妻・紫上と出会う、運命的なシーンです。
「小柴垣の垣間見」あらすじ解説動画
こちらは、あらすじ解説に特化した動画です。併せて見ていただくと、より理解しやすくなります。
注意書
古文を読むには、①文章の意味を知るための文法の知識、②明記されていないけれど当時の読者には常識だった事項、この2点の理解が必要です。以下では、文法の知識に①、文化情報に②という記号をつけています。
冒頭:人なくて、つれづれなれば…
貴公子が垣間見に出かける。これは平安文学では「出会い」のフラグです。
人びとは帰したまひて…
集団で暮らしていた平安人に、プライバシーという概念はありません。
スキマあれば覗く、手紙おちてたら読む、声が聞こえたら盗み聞く、これが平安の常識です。
また、都の男性たちはかなりワイルドで、徒党を組んでのケンカなど日常茶飯事でした。そんな中、見たいという本能のまま覗くのではない、ひっそり隙見する貴公子は、「みやび!(宮廷風)」とむしろホメられたのです。
ただこの西面にしも…
貴公子が垣間見したのならば、中には美女がいて恋に発展する。これが平安の常道です。しかしこの物語では、いたのは尼さんでした。読者の期待は、ここで一度外されます。
中の柱に寄りゐて…
しかし!その尼さん、どうも只者ならざる気配です。超VIPである光源氏にも負けないような、高貴な人のように見えます。
四十余ばかりにて…
尼さん、還暦ぐらいで高貴で美人です。…これは、もしかしたら、妙齢の娘がいるかもしれません。そう仄めかす文章です。読者の期待、再び盛りあがります。
なかなか長きよりも…
この場面は一貫して、光源氏の視点から語られています。光源氏、尼さんにとてもイイ印象を抱きましたよ!
清げなる大人…
部屋には他にも大人がいました。おそらく女房と呼ばれる高等召使いです。さらに、子どもらが遊んでいました。
中に十ばかりにや…
すると! 子どもの一人が走ってきました。(これがのちのヒロイン、紫上です)。走ってくるとは、姫君にしてはかなりオテンバ、インパクトある登場です。とはいえ読者は、年ごろの美女を期待していたハズですから、少々気抜けしたに違いありません。
あまた見えつる子ども…
「子ども」は「子」が複数いるという意味です。「子たち」より品を欠く表現で、使用人の子らだと察せられます。そして、紫上はそんなモブとは比較にならぬ、行く末楽しみな美貌ぶりでした。平安時代、子供は「女」ではありません。読者は首をひねり、(姉姫がいるのか?)等と思ったことでしょう。
髪は扇を…
髪の豊富さは、「きわめつきの美」を意味します。頬が赤いのも同様です。食料が基本不足している時代ですから、たっぷり食べて育った丸い顔、血色のよい頬、豊かな髪、そんな健康美こそ魅力だったのです。
ただこの女児(紫上)の場合は「すりなす(擦って赤くする)」という表現から、泣いて擦ったため赤いのだと分かります。
「何ごとぞや」…
尼さんが、女児(紫上)に話しかけたセリフです。「どうして泣いたの? 子供たちとケンカなさったの?」と言っています。その顔が女児の顔とやや似ていました。それで光源氏は(母子か?)と類推します。しかし確証はありません。読者も光源氏も、この少女の謎に惹かれていきます。
まとめ
上の文章は、作者・紫式部のテクニックが光る構成になっています。
読者を「出会いか?!」と期待させ、「なんだ尼さんなの…」とガッカリさせ、「でも娘がいそう」とまた盛りあげ、「でも、女児か」と再度空振りさせる、「期待と外し」という見事な技です。そして女児の身元を謎めかせ、読者の興味をそそっています。
それでは、続く文章は次回の投稿にて!