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20代の二人が漁師を仕事に選んだ理由
メディアで報道されているように、高齢化や若者の人口流出などにより、日本の第一次産業従事者は年々減少傾向にある。これは、地方移住先として私が選んだ瀬戸内エリアの離島、小豆島や豊島も例外ではない。
漁業が盛んな瀬戸内エリアには、昔から多くの漁師町が点在している。しかし令和を迎えた今では、20代から30代の漁師に出会える確率はとても稀。進学を機に島を出て都会で就職したり、卒業後に島に戻って来たとしても第一次産業以外の仕事に就く若い世代が多い中、小豆島で「漁師」を仕事に選び生きることを決めた、この町で活躍する漁師の中で最年少となる20代の二人の若者がいる。
◆プロフィール
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畑中 幸一郎(はたなか こういちろう) *写真左
出身地: 香川県土庄町長浜
漁師歴: 7年目
主としている漁: 海苔、サワラ、タコ、マナガツオ
須藤 大貴(すどう だいき) *写真右
出身地: 香川県土庄町伊喜末
漁師歴: 3年目
主としている漁: 鱧、海苔、サワラ
彼らはなぜ、漁師の道を選んだのか?
どのように漁師になったのか?
漁師の仕事の魅力とは?
この記事では、20代若手漁師の二人が語る漁業のこと、離島の漁師町が抱える後継者不足、彼らが漁師の仕事を続ける理由まで、彼らのリアルな声をシェアしていきたい。
漁師町に生まれ育った二人
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昔から漁師たちが多く住むエリア
(土庄町長浜・2022年12月撮影)
畑中さんも須藤さんも、漁師や漁業者が多く住む四海地区の出身で、幼稚園から高校までずっと一緒。地区内には、2016年に地域ブランド「小豆島島鱧®︎」を立ち上げた四海漁業協同組合があり、二人とも親族に漁師がいる。
畑中さんのご実家は、曽祖父から代々続く漁師家系。長浜漁港に海苔の加工場があり、冬は海苔養殖業を中心にされている。
須藤さんは祖父と伯父が漁師、父親はフェリー会社に勤務する船乗りだ。
漁師の仕事を選んだきっかけ
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「刈り取り船」と呼ばれるこの漁船で海苔を刈り取る
(2022年2月撮影)
畑中さん: 僕は、高校卒業してからすぐ漁師になりました。魚とか獲るんの好きやし、漁師したいなと思いよって。
須藤さん: 僕の実家は漁師じゃないけど、小さい頃から祖父や伯父が底曳き網漁をしよったから、海のモンを見るのも好きやったし。その頃、前の仕事しとるときは自分の中でパッとせんかった。
須藤さんは前職で、シャッターを扱う企業でメンテナンスを担当。当時、仕事が休みの日に、高松市に住んでいた須藤さんは伯父へ連絡。漁へ出る伯父の仕事についていったところ、漁の面白さに心惹かれた。
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(小豆島島鱧プロモーション映像より)
映像提供: 四海漁協
須藤さん: 漁から帰って来て「面白いな、やりたいな」って思って。おっちゃん(伯父)に連絡したら「ええよ」って言ってもらえて。おっちゃんは、僕を漁業塾へ行かせるつもりで漁業組合に段取りしとってくれたみたいで。「かがわ漁業塾に行ったら、底曳き(網漁)以外にもいろんな漁を勉強できるし」って。それで、漁業塾に行くことになったんです。確か、僕は5期生くらいですね。
畑中さん: かがわ漁業塾は、僕が漁を始めた頃に始まったみたいで。僕も他のいろんな漁の現場を見てみたかったけど、当時は海苔の漁がそんなに良くなかったし、人手が要りよったから。半年ぐらいかかる漁業塾には行けんかったんですよ。タイミングが合えば行きたかったです。
▶︎ 漁業の担い手育成機関「かがわ漁業塾」
かがわ漁業塾で学んだこと
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漁業塾OBの漁師、須藤大貴さん
映像提供: 四海漁協
漁師育成機関「かがわ漁業塾」では、一体どんなことが学べるのだろう。
また、ここでの学びは、漁師として仕事を始めてどのように役立ったのか。
漁師の道を志した須藤さんが半年間通った、香川県の漁業の担い手育成機関「かがわ漁業塾」について、印象に残っていることを尋ねてみた。
須藤さん: たぶんずっとこっちでおったら見んやろうな、みたいな、伊吹島のイリコとか庵治のバッシャ(込網漁法)とか、底曳き(網漁)以外の漁が見られたのがよかったですね。あと、漁業者は収入に波があるから、漁が悪かった年の保険として積立金をかけておくとか、経営のことも学べたし。ロープの結び方なんかも習うんですけど、漁で使う網を縫う練習は役に立ったかな。網の縫い方を教えてくれて、漁の網を自分で縫うてひとつ作ったんですけど。それまでは縫い方なんて全然知らんかったし。あれは為になったなぁって思いますね。
オフシーズンや漁に出る以外も仕事はたくさん
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土庄町の海苔生産量は県内上位にランクイン
(2022年12月撮影)
10月から3月末までは、海苔養殖業の繁忙期。
香川県では毎年2月6日の「海苔の日」に合わせて、香川県漁連から県内の小中学生に最高級の海苔が贈られているほど海苔養殖業が盛ん。
さらに、香川県内の海苔生産量の上位にランクインしている地域のひとつが、ここ、土庄町だ。
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刈取り船(潜り船)で収穫される
(写真提供: 四海漁協)
畑中さん: 僕は海苔の漁がメインなんで。4月から9月末まではサワラ、マナガツオ、タコを獲りに行ったりもしとるんですけど、海苔のシーズン以外は他の漁にも出ていきながら、海苔網を直したり、ロープを点検したり、全ての漁具に壊れているところがないかを見直したり。10月から海苔が始まるまでに準備できとるように、自分で仕事内容を調整しながら準備してます。業者に出して修理することももちろん出来るんですけど、お金がかかるんで、ほとんど自分で直します。海苔がない半年間のほとんどは、そういう作業にかかってますね。
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(2022年12月撮影)
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(写真提供: 四海漁協)
網の修理はもちろん、海の環境改善を目指す海底耕耘など、漁師さんにその仕事を訪ねてみると、私たち一般人に認識されている漁師さんの仕事の枠に留まらず、多岐に渡ることを自身でこなされていることがわかる。
※下記、海底耕耘のリール動画内の赤い長靴の漁師さんが畑中さん。
須藤さん: 僕は、夏場の底曳き漁では鱧を獲ってますね。他にもエビやヒラメなんかもよく獲れます。6月くらいから9月いっぱいかな、10月からは僕も海苔養殖を手伝いに行きよるから。僕ら、冬は同じように海苔をしとるけど、夏にしている漁は違いますね。
▶︎師匠と共に漁に出る須藤さんが映っている底曳き網漁の映像
▼須藤さんの師匠、長栄さんの漁を取材したリール動画
普段は一人で漁に出るという須藤さん。自身がメインとしている底曳き網漁では、船の操縦から漁に関わる全ての作業を一人でこなしている。普段、物静かな須藤さんだが、沖から港へ戻って来た他の漁師さんたちとのコミュニケーションを大切にされていることがこの取材でわかった。
須藤さん: 漁の後とか休みの日に漁協に来たら、他の漁師さんもおるんで。その時に「あそこ行ったら、いま、湧いとるど。」とか「あそこ行ったけど、さっぱりやったわ。」とか話を聞いたりして、昼間はここでおって、暗なって来たら漁の場所を変えたり、とかもしますね。
仕事の大変さも漁師特有
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決して楽とは言えない漁師の仕事。
どんな時にしんどさや大変さを感じるのかを二人に尋ねてみた。
畑中さん: まず、漁の時期は、休みってほとんどないなぁ。天候悪いときはもちろん船出せんし、仕事の区切りのいい時に休んだりとかはするけど、海苔の時期には定期的な休みっていうのはないです。
須藤さん: コロナ禍で飲食店が閉まったりした時期が長いことあったじゃないですか。買い手がおらんので、売るんも魚の値段が安くなったり。あとは今だと、油代が高いとか。いろいろあるけど、漁師としてはやっぱり魚が獲れんかった時が一番しんどいかな。なおかつ、魚の値段が下がって、水揚げが少ない時なんかは「えぇーっ!?」って(笑)それが続いてしまったらしんどいな。
畑中さん: あと、鱧は歯がごっついんで。海の中ではそんなことないんですけど、鱧って、海から揚げた時に噛み合うんですよ。
須藤さん: めっちゃ噛むんすよ、お互いがお互いを噛んで。そうなった時点でその鱧は「スレ」やから。獲れた鱧がスレ*ばっかりやったら、悲しなりますもんね(苦笑)あとは夏場やったら暑いから、急いで持っていかんと傷むし。
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海から上げられた直後に互いに噛み合っていた鱧
魚価が下がってしまうため「スレ」が出ないよう配慮
(2022年6月撮影)
*スレ
網で魚が擦れてしまったり、魚同士が噛み合ってしまうことで魚自体に傷がついてしまうこと。
高齢化による担い手不足と「継がせない選択」
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同級生の半分以上は進学を機に島を出て、そのまま就職。島へ帰って来た友人は極僅かだという。
畑中さんのように家業を継いで漁師になった同級生はいない。また、家業でなかったにもかかわらず漁師の道へ飛び込んだ同世代も、須藤さんのみだ。
畑中さん: どこの家も「継がない」というよりは、「継がせない」いう方が多いかも。魚の値段が下がっとるし、安定せんし、エンジンとか壊れた時に高いし、とかそういうんもあって、金銭面を考えて継がせたくない、と。自分らが苦労しとるから、子供にはそういう苦労はさせたくないっていう親の思いがあるんかな。後継者不足はあるけど、船とか漁具とか揃えなあかんから始めるのにお金もかかるし、一から漁師しよう思って他から入って来るには、それはそれでなかなか難しい部分があるかもしれんな。
家業の漁師を継ぎたいと思ったお子さんもいたようだが、こうした理由で「継がない、継がせない選択」をされたご家庭も何軒かあったようだと、二人は語る。
畑中さん: それでも僕が継いだのは、海苔があったからかな。海苔はいろんな工程があって、扱うものが一人じゃとても無理なんで人手が要るし、安定はないけど。でも、親もじいちゃんもやっとった海苔があったから、継ごうって思えたんかな。
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畑中さんのご実家の海苔加工場
(土庄町長浜・2022年12月撮影)
それでも彼らが漁師を続ける理由
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サワラを抱えているのが須藤さん
(写真提供: 長栄良仁さん)
二人が漁師を続ける理由とは、漁師の仕事の魅力とは何なのか。
畑中さん: 楽しいから、苦にはならん、っていうか。漁が悪かったら、次は違うことをしてみたり、どうしたらいいんかなって考えたり。しんどいことも苦にはならんかな、っていう感じですかね。でも、漁師の仕事してて、しんどいって感じたこと、あんまりないから、わからんなぁ(笑)
須藤さん: 僕も同じかな。漁が良い時は「わあ!ごっついやん、これ!」って、自分の中で達成感があるから。魚がおらんかったらおらんかったで悔しなるけど、それはそれでおもしろいって感じるし。
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漁師の仕事が大変なことは、素人の私にだってもちろん想像はついていた。しかし、ここまで読んでいただいてわかるように、辛かった・しんどかったエピソードを取材中に何度尋ねてみても、二人からは「漁は楽しいから」「苦にならんから」というポジティブな答えばかり。
海苔養殖業のシーズン真っ只中である年末の今頃は、まさに彼らの繁忙期。今日も瀬戸内海に浮かぶ漁船の上で、二人がイキイキと働く姿を見られるかもしれない。
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畑中幸一郎さん(左)・須藤大貴さん(右)
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■取材協力(敬称略)
畑中 幸一郎
須藤 大貴
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Posted by SAYULOG on Sunday, July 24, 2022
#鱧 の水揚げで有名な #瀬戸内海。#小豆島 にも注目のブランド鱧「#小豆島島鱧(しまはも)」がありまして。
— SAYULOGよしださゆり (@sayulogofficial) September 15, 2022
これがとにかくおいしい!
漁師さん曰く、秋は1年で最もハモに脂が乗っているんだとか。
漁師町のお母ちゃん直伝!
ご当地 #ハモ料理 つくってみたよ🐟
https://t.co/aaJRTxvic2