故郷の畜産業を守りたい!小豆島へUターンした30代農家の挑戦
地方移住のきっかけとして、昨今、急速に認知拡大している「地域おこし協力隊」。この制度は、都会から地方へ移住を考える人が協力隊になって移住するイメージが一般的に広がりつつあるのも、前述のケース(私も東京から香川へ移住)が圧倒的に多いからかもしれないが、中には故郷へ戻って地域で何かしたいと協力隊になり、故郷で活躍しているUターン組の隊員もいる。
香川県土庄町地域おこし協力隊の畜産振興担当、児戸源太さんは、同僚の現役隊員*の中で唯一のUターン組(*2022年12月現在)。
「地元の畜産業を守りたい」
そんな想いを持って、彼は畜産農家としての独立を目指して、この町に帰ってきたのだ。
この記事では、協力隊として地域で活動している児戸さんのこれまでのご経歴や、協力隊になった背景、なかなか知ることのできない畜産農家さんの仕事の裏側をシェアしていきたい。
◆プロフィール
児戸 源太(こと げんた)
土庄町地域おこし協力隊
所属: 農林水産課
任期: 2021年7月~現在
ミッション: 畜産振興に関する活動
出身地: 香川県土庄町
▼土庄町地域おこし協力隊卒業生インタビュー
地域おこし協力隊を卒業後も土庄町に定住し、頑張る卒業生のみなさんの取材記事。この町と出会う前のことや協力隊としての歩み、卒業後についてたっぷり伺ったインタビューはこちら☺︎
「官牛放牧の地」で生まれ育った幼少期
児戸さんの地元、小豆島北西部の土庄町滝宮地区にある八坂神社。この写真の左奥には、「官牛放牧之跡」という石碑が立っている。
石碑の説明によると、小豆島には1300年ほど前に牛の官営放牧地があり、それは80年ほど続いたという。古くから牛と深い縁がある小豆島。特に、土庄町滝宮地区には畜産農家が多かった。
滝宮で幼少期を過ごした児戸さん。香川県の和牛ブランドとなった「オリーブ牛」。オリーブ牛の生みの親である石井正樹さんをはじめ、児戸さんの周りには多くの畜産農家さんがおり、地域の農家さんたちからも「源ちゃん」の愛称で親しまれている。
児戸さんにとって、畜産農家はずっと身近な存在だった。
地場産業の担い手を目指して
小・中学生時代は高松市内で過ごした児戸さんだったが、当時、相撲部の強豪として全国的にもよく知られていた小豆島高校(現・小豆島中央高校。元大相撲力士の琴勇輝を輩出)からスカウトされたことを機に土庄町へ戻り、同校へ進学。
その後、大学進学のタイミングで再び小豆島を離れて京都へ。そのまま相撲の道を進んだが、ケガにより断念。大学を離れた後は、小豆島の現地企業で3年ほど就業。自身の生き方について考えたときに思い立ったのが、少しずつ衰退していく地場産業の担い手になる選択だった。
彼が畜産業の道へ進むことを考え始めた当時、土庄町では後継者不足などの問題から既に多くの畜産農家が縮小、廃業。児戸さんの幼い頃から昔と変わらず、規模も拡大しながら地元で畜産業を営んでいたのは、前述の石井さんの農場だけだったという。
地元であったことから、地場産業である畜産業について、どんなことをしている業界なのか程度のふんわりとした認識はあったが、仕事のルーティンなどの職業面の細かな部分は詳しく知らなかったという児戸さん。ゼロから畜産業の世界へと飛び込むことに。
「ゼロから畜産業を始めるのなら、独立を目指してやってみよう」
そう心に決めた児戸さんは、香川県東部にある酪農家さんのもとで5年間修行。その間、独立に必要な資格の取得やスキル習得に励んだ。
地域おこし協力隊としての活動
独立して畜産農家を目指そうと思っていた児戸さん。そこに、地元土庄町で小豆島オリーブ牛後継者を募る地域おこし協力隊、畜産振興枠の募集があり、応募。2021年7月より晴れて隊員としての活動が始まった。
畜産農家の担い手として協力隊を募集している自治体は、全国的にも極めて稀であり、協力隊の活動の中でもかなり特殊な内容である。
1. 仕事を学ぶため、複数の農家さんの現場へ
土庄町内の四海地区、豊島地区にある5軒の畜産農家さんの元をまわり、現場で仕事を学ぶ。
児戸さんが通う先には、下記の3パターンの農家さんがある。酪農経験はあるものの、畜産と異なるところも多く、実践で経験して学んでいくのだという。
・繁殖農家
仔牛を生ませ、生後8ヶ月くらいまで育てた後に市場へ出荷する
・肥育農家
生後8ヶ月くらいの仔牛を買い、2〜3年かけて大きく育て、食肉用に出荷する
・一貫経営(繁殖農家+肥育農家を合わせて経営している業態)
牛の個体管理
→どこから来た牛なのか、体調管理、繁殖管理、分娩立ち会い、治療履歴などの把握
取材をさせてもらった中で私が最も印象に残っているのは、牛の出産場面。いつ産気づくかわからない母牛の体調を気遣いながら、夜通しつきっきりなことも珍しくないという。
すんなり出産が進むと限らないのは、牛も同じ。母牛の容態を常に気にかけていなければならない。この時の出産では、22時に母牛が産気づき、逆子であった子牛がようやく出て来たのは深夜3時過ぎ。その後も寒さに震える子牛の状態を確認するなどして、牛舎を後にしたのは朝の4時頃だったが、この日も普段通り、朝のエサやりがあるので、朝の6時には牛舎に戻り作業を始めたタフな児戸さん。
畜産農家さんたちにとって、こうしたハードな仕事は昔から日常茶飯事であったが、近年では畜産業でも「スマート農業」を取り入れ、機械での牛の体調管理や個体管理などにも取り組み始めているという。
2. 認知拡大を目指した情報発信やプロモーション
小豆島の特産であり、香川県の県木でもあるオリーブ。
オリーブ牛の生みの親であり、児戸さんの師匠でもある、小豆島オリーブ牛研究会会長の石井正樹さんが、島のあちこちでオリーブオイルが生産されている小豆島で産業廃棄物となっていたオリーブオイル搾油後の果実の飼料化に成功し生まれたのが、現在、香川県を代表する和牛ブランドのひとつとなっている讃岐牛の新ブランド「オリーブ牛」だ。
また、小豆島、小豊島の指定牧場のみで生産され、離島の快適な環境の中でゆっくりのびのびと育てられてている小豆地域のオリジナル和牛ブランド「小豆島オリーブ牛」は、同地域で活動する児戸さんもその飼育に携わっている。小豆島オリーブ牛は、オリーブ牛発祥の地であるここ、土庄町の学校給食で毎年提供され、地場産物を食べることや生産者さんとの交流を通じて、児童・生徒たちに地域への興味や学びのきっかけとなっている。
畜産業や「オリーブ牛」の認知拡大を目指し、児戸さんはInstagramで現場での仕事の様子や、オリーブ牛、小豆島オリーブ牛が食べられる飲食店やイベントの情報などを発信。お肉屋さんなどへのプロモーションにも努めている。
また、町内や近隣地域でのイベントに自らが参加し、オリーブ牛のおいしさをより多くの方に伝えている。
▶︎児戸さんのInstagram ➡︎ 土庄町地域おこし協力隊(畜産業振興)
3. 学生との域学連携事業
土庄町が提携している土庄町域学連携交流事業とも関わりを持ってきた児戸さん。連携大学の学生より食育や経営面における企画提案などを受けながら実施可能な施策を具体的に詰めていったり、また、大学生からの土庄町地域おこし協力隊の現役・OB/OGへの「ライフヒストリー調査」にも協力するなど(上記写真7枚目が学生によるヒアリングの様子)、畜産現場のことを積極的に学ぶ多くの学生たちと交流してきた。
故郷の畜産業を守りたい
これまでの記事でご紹介した、Uターン後にみかん農家へ転身された太田さん、島内でも珍しい20代若手漁師の畑中さん・須藤さん。彼らと同じように、児戸さんも畜産業で独立し、第一次産業で自身の故郷を盛り上げていきたいという思いを抱いている。
畜産農家として牛の健康を守りつつ、農家さんを応援できるような活動やプロモーションに携わりながら、「小豆島オリーブ牛」というブランドを広めたい、また、小豆地域のみで生産されている希少ブランド「小豆島オリーブ牛」の安定供給を目指したい、と語る児戸さん。
彼の目標は、協力隊任期中に複数の現場で畜産業の知識をさらに深めながら、任期満了後には独立し、自身の牧場を経営すること。オリーブ牛の堆肥を利用した循環型農業も視野に入れながら、故郷を盛り上げていくことを目指している。地域の畜産業が一層発展した児戸さんの描く未来に出会える日を楽しみに、今後も彼の活動を応援していきたい。
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■ 取材協力(敬称略)
児戸 源太(土庄町地域おこし協力隊)
- Instagram
- 小豆島オリーブ牛 公式ブランドサイト - THE 1st Olivebeef
石井 正樹(小豆島オリーブ牛研究会)
【公式】土庄町地域おこし協力隊
- Instagram
- Facebookページ
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最後まで読んでくださってありがとうございます。
YouTubeチャンネル「SAYULOGさゆログ」をメインに活動している、YouTuberよしださゆりです。
noteではこんなことを発信しています。
・YouTubeではお話できなかったことや、企画、撮影の裏側
・これまで住んでいた台湾、オーストラリア、トルコなど海外で気づいたこと
・東京出身の私が移住した小豆島のこと
・個人の活動と並行して携わらせていただいている地域おこし協力隊のこと
・30代の私が直面している親の老後や介護のこと
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