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【たからばこを、あけてみる。】1.木曜日にはココアを


わたしは、人一倍感受性が強い。
自分の外側にあるものも、内側にあるものも、小さいものにも敏感に反応して深くて強い感情が生まれる。
そのため傷つきやすく、心が壊れてしまったこともあった。
反面、強く感情が高ぶったり心を揺さぶられて、すきだなあと感動したことはずっと自分の中に残っていて、きらきらした結晶となり、自分の内側にある宝箱に入っている。


タイトルに惹かれて観に行った映画のワンシーン、
友達に借りて読んでみた漫画の一コマ、
本屋で自然と手が伸びた本の文章、
聴くたびに涙が出そうになる映画の中で歌われている歌の一秒、
忘れてはいけない気がしてDVDを買った映画の中のセリフ
聞き流していたら突然耳に入ってきた歌詞
繰り返し見てしまう短編ドラマの風景。

高く高く広がる秋の空に残る夕日
初めて作るお菓子の味
どうやって作ろうかと考える過程のわくわく感
帰り道にあるドーナツ屋さん
本棚の並び
まっすぐに伸びる彼岸花
しいたけの裏のひだ
夕方のお風呂
果物をむいてくれる人。


日常の中にすきだと思うものがたくさんあると、心の中に自分だけのしあわせが詰まった宝箱を持っていると日々が楽しい。そして、その楽しさは突然やってくるどん底の日にとっても必要な、自分を支える杖になる。

先日外を歩いていて、春でもない夏でもない心地いい空気の中歩いていたらふと、その宝箱をあけてひとつずつ外に出してみようと思った。
ひとつめは、心がぎゅっとなった本の一文を。



─木曜日にはココアを。



この物語は、カフェから始まる。短編のようで、登場人物同士が繋がっている物語だ。わたしはこの本に、休職中に出会った。

前職では、農業関係の仕事をしていた。資材や肥料関係の、やりたかった部門に配属されて、やりたかった内容の仕事をしていた。しかし、1人との関係が本当にうまくいかず、過呼吸と手足の硬直が頻繁に起こるようになり、ある日限界がきて心を壊して休職をした。
最初は本当に体が重くて起き上がれない日々が続いた。徐々に動けるようになって、とにかくぼーっとしたり散歩した。道端にある花を見つけたり、ただただ綺麗な夕日を追いかけて自転車を漕いだり。心が死んでいるときには忘れていたすきなものと再会していった。少しずつ回復していき、たくさん人と会い、そして本を読んだ。
自分以外の人と話したり、本に触れると、自分では気づかなかったような意見や考えを知ることができる。


この日も本屋をぶらぶらして何かないかなと本棚を眺めていた。ふと、タイトルと表紙に惹かれた。それが、"木曜日にはココアを"だった。

読み始めると、すらすら読めた。わたしの中で本は二極化していて、いくら読んでも頭に入ってこない本と、すらすら読めて最初から最後まで一気に読める本があるが、この本は圧倒的に後者だった。起承転結があって面白い、というわけではなく、文章がやわらかくてスッと心に染み渡るのだ。そしてところどころに、ドキッとする文章が散りばめられている。きっと筆者は自分で感じとった自分だけの言葉をたくさん持っていて、それを世に聞いて欲しいと思って本を書いているんじゃないかと思った。完全に想像だけど。そうして読み進めていると、この文章に出会った。


ラルフさんは、お金をきっちりと数えたり管理したりする仕事も嫌いではありませんでした。でも今は、お客さんたちと友達みたいに仲良くなったり、「今日のトマトは艶が良くて美人だぞ」とか、「暑くなりそうだから、冷たいレモネードを多めに用意しておこう」とか、「ペーパーナプキンのデザインをちょっと変えてみようかな」とか、「数字」ではなく「自分が感じること」で仕事が動いていく、そんな日々が楽しくてたまらないのです。



心が、掴まれた。
ぎゅっっと、掴まれた気がした。
そして、涙があふれて止まらなかった。


こんな風に、生きていきたい。


ものすごく、
ものすごく、
ものすごく、
強く惹かれた文章だった。
心が、全身が焦がれた。

こんな風に、その日の気温やその日の状態に合わせて、自分で考えて、過ごしていきたい。

休職している時は何も次のことを考えていなかった。ぼんやりと、もう今の職場には戻れないな、と感じていた程度。でもこの文章を読んで、頭がビビビときて、やりたいことが見えた。


お菓子を焼きたい。
飲食をやりたい。


いちごと白餡のクグロフマフィン。生地にいちごミルクを入れ、フリーズドライのいちごを混ぜ込み、白餡を詰めた。


ずっと趣味でお菓子を焼いてきた。自分のために作った時も、他の人にあげるために作ったこともあった。失敗しても、理由を見つけて攻略していく過程。全ての材料に役割があること。全ての方法に理由があること。知れば知るほど面白くて、仕事以外の時間よく作るようになっていて、もはや研究しているレベルだった。ずっとこれに触れていたい。そう思い始めていたことを、思い出した。


その後もずーっと頭の中にこの文章が残っていて、離れなかった。


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今はコーヒーと焼き菓子のお店で働いている。
今日は途中から雨が降り始めて寒くなりそうだからホットがたくさん出るだろう、あの人がこの前このお菓子を買えなくて残念がってたから多めに焼こう、そんな会話をしている。

先日、ラテのミルクのスチームをしている時、ふと
ああ、しあわせだなあ
と思った。
その瞬間はすごく忙しくてバタバタしていたけど、このバタバタは自分で選んだからこそのバタバタだと思うと、しあわせだった。
一気に、心がふくふくしていくのを感じる毎日。いろんな生き方があると思うけれど、わたしは自分が好きなことを仕事にしたいタイプだなあと本当に思う。
自分が人一倍反応する感情や感覚を押しつぶして生きていくより、それを抱きしめながら、生きていきたいと思った。

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ふたつめは、憧れているライターの方のことばについて書きます。



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