店長候補生◎パレット奮闘記 # 2
「ここで、いいかなぁ?」
「いいとおもう!とりあえずここにおきましょ!」
ピョコピョコとイスを運ぶくまのぬいぐるみ。
それに応えるうさぎのぬいぐるみ。
ここは物語の世界にあるカフェあめだま物語支店
名前のまだない二体のぬいぐるみ、通称くまさんとうささんは、
ここでアルバイトをしている。
今日は、
オープン目前のこのお店を二体で大掃除中。
「がまぐちさん、ぱれっとさんになにをさせてるんだろぉ……?」
「そんなことより!そうじですそうじ!さっ!そっちがわもって!」
うささんに急かされ、テーブルを移動しながらくまさんは、
キッチンにいる、ガマ口と、このお店の店長候補生を心配そうに眺めていた。、
◆◆◆
店長候補生◎パレット奮闘記
# 2 『どうしたい?ってどうするの?』
二体のぬいぐるみが大掃除を始める少し前の出来事……。
「ほら、ノートひらけ!今から……」
「いやいや!それよりも自分は、お店の開店準備を……!オープンまで日が無いし!!」
金色の長い髪を振り乱しながら叫ぶ、パレット。
すこし前まで店長として自分のお店を持てると心躍っていたのに、
そもそも店長ではなく、店長候補生で、しかも……、
「ケケケ?いいのか?オレサマが認めない限り、お前店長なれないんだぞ?」
指導員は、ものすごく口の悪い。この喋るガマ口鞄。
パレットはこの状況に中々納得がいかない様子。
ただ、折角自分のお店を手に入れるチャンス。
仕方なく。渋々、言う通りにすることを決めた。
ため息をついて、オーナーから託された「奮闘記」を開く。
「……。じゃあ、何からすればいいですか?」
「よし、じゃあお前がこの店でやりたい事を言ってくれ!」
ガマ口から言われたのは、自分がやりたいこと。
ぼんやりと、自分のお店を持ちたいと思っていたけど、この店でやりたいこと?
と言われ、キョトンとしてしまった。
「おまえはどうしたいってやつだな。」
「え?……。お店、やりたいです。」
しばらくの沈黙。
「はーい!んじゃ!うさぎとくまは掃除頼むぞー。」
「おそうじね!」「がんばるぞぉ」
ぬいぐるみ達が掃除の準備に走る。
パレットは、沈黙の理由が自分にあるのを理解して
確認する。
「へ?お店でお店やりたいってのじゃダメ?」
ガマ口は振り返らず、
「おまえはカフェあめだまの店長候補生だ。きっと「好き」があるはずだ、どうしたいかをちゃんと考えな!」
と、ニヒルに語り。奥の部屋に行ってしまった。
「どうしたいって……どうするの?」
ノートの前で悩む、パレット。
カフェあめだまは、現在人間の世界では店舗を持っていない。
週一での開店も「色々」が重なってお休み中。
誰かの好きと誰かの好きが繋がり、新しい好きが見付かる。
と言うのが全体のプロジェクトのテーマ。
色々な表現や創作とのコラボアートで生まれる
それぞれの好きが重なって出来る新しい好き。
「さっき、ガマ口は好きがあるはずとかなんとか言ってたなぁ」
好き。好きな事。
カフェ、お洋服、甘いもの、綺麗なもの……人と話す事。
色々思いつく。
自分のお店を持てたらそれが全部出来る。
そう思ったからオーナーから連絡が来た時ふたつ返事で受けたのだ。
まぁ、肝心な研修の事とかは、忘れていたけれど……。
言葉にするのは難しい。しかも相手に伝わらなきゃいけない。
悶々と悩み、今にも頭から煙が出る寸前、
ノートの上に突っ伏して、再びのため息。
「このお店でどうしたいか、かぁ……。」
すると、頭の横にコトリ、と何かを置く音。
ふわっと鼻をくすぐる穏やかな湯気の香りに顔を上げるパレット。
「んで?どうだ?思いついたか?ケケケ……。」
「まだ。なんとも。あと珈琲……。実はブラックが……。」
ガマ口からの優しい声かけと珈琲に落ち込みながら応える、パレットに
笑いながらガマ口が言い放つ。
「おまえもかよ、ケケケ!ウケるな。まぁ飲んでみろよ!無理なら砂糖もミルクもある。」
「なんだよ、そのおまえも、ていうの。自分は苦いのは……!美味しい……。」
笑いながら、ガマ口は続ける
「オーナーも昔珈琲ブラック飲めなくってよ。アイツはハンドドリップのブラック珈琲に感動してカフェやる事にしたんだよ。」
「え……。カフェのオーナーなのに?!」
「ケケケ!おまえもカフェの店長だろ!まぁ、まだ候補だけどな。」
再び、口に運ぶ。あと味の深さと香り。
優しい飲み口の珈琲。苦味もあるけれど、どこか甘みすら感じる
「ハンドドリップってこんなに柔らかいんですね……。知らなかった。」
「カフェあめだまの珈琲は珈琲が苦手な人間に向けて柔らかく淹れてるんだ。まぁ俺が淹れてるってのもあるがな!」
「へぇ……。え?どうやってハンドドリップするんですか……?ハンド無いのに!」
「ケケケ。んなことより、どうだ?どうしたいか、決まったか……?」
「そうだった!!!!」
本題を思い出し、ノートに向き直すパレット。
すこし、考えこみ珈琲を口に含む。
「自分、この店をどうしたいか、わかりました!!」
そう言って、ノートに文字を書き始める。
どうしたい、と言う気持ちを、誰かと共有する
否定されるかもしれない不安と、新しい何かが見える期待が、
パレットの中で産まれようとしている。
つづく
◆◆◆
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