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叶ったつもりで行動すれば願いは叶う? 母の上京×うたコンで実験!

9月下旬。東北の田舎町に住む母から連絡がきた。「YouTubeの収益が振り込まれたから東京に遊びに行くよー」と。まあ、遊びに行くというのは建前で、わたしの手術が控えていたので心配で来てくれることになったのだ。

母が東京に来ることが決まったとき、わたしは以前からやってみたい実験をやってみることにした。誰しも一度は見聞きしたことがあると思う。それは、「すでに叶ったつもりで行動すると願い事が叶いやすくなる」というもの。

脳内で計画が出来上がる。NHKの『うたコン』に観覧申し込みをする。そして、母が当選したつもりで『うたコン』に行く準備をしてみる。そうしたら実際に当選するだろうか。

渋谷にあるNHKホールでの観覧が当選するのは至難の業。コンピューターで無作為に選ばれるため、当選するには「運」というものに頼るしかない。うたコンの当選倍率は、毎回ゲストが変わるため、その時々で倍率も変わるようだが、なかなか当選しないとネットに書かれているし、当選倍率はおおよそ10倍〜15倍と言われている。

こんないい機会はめったにない。せっかく母が東京に来るのだからと、母が東京滞在している11月12日の観覧に、えい、ヤーと申し込みしておいた。申し込みするのはタダだし、損はない。

母が東京に到着すると、まだ当選の連絡は来てないのに、母が『うたコン』に行くための準備を始めた。すでに叶ったつもりで、下着を新調し、わたしの真珠付きセーターを貸す。歩きやすい靴をいっしょに買いに行き、冬の装いに映える白のバッグ、真珠のネックレス、銀の薔薇のバレッタも揃えた。まだ結果はきていないのに、『うたコン』に当選したものだとし、準備を進めた。

「ここまで準備をして、落選だったら笑っちゃうよね」なーんて二人で笑っていたけど、ちゃっかり当選した。うわっ! 自分で実験しておきながら驚いてしまう。「願いが叶ったつもり」で準備していたら、本当に当選してしまった。

誤算だったのは、わたしが母を渋谷のNHKホールまで送迎するつもりだったのに、手術後の傷が痛くて付き添いが出来なくなってしまったことだ。誰かアテンドしてくれる人はいないだろうか。

そんなとき、弟から連絡があった。「11月12日、東京に出張になったんだけど、お姉ちゃんちに泊まってもいい?」

な、な、なんて偶然。なんていいタイミング。それはちょうど『うたコン』の観覧日。「大歓迎だよー」と弟に返事をする。母が来るからと家中の片づけが終わっていたし、弟の分の布団セットが我が家にある。わたしはゆるミニマリストだけど、弟が使う分の布団セットを持っていた。ナイス! わたし。

手術の傷口が癒えないわたしはお留守番で、母が『うたコン』へ行くための送迎を弟に願い出た。番組が夜だったのが幸いで、弟が仕事を終えてから母をアテンドしてくれた。生のNHKホール、オーケストラによる生演奏、生で聴く歌声。テレビ越しではない本物の会場の空気。すべてに感動して母は満足げに帰ってきた。

弟がいてくれて良かった。いろいろな偶然が味方し、母は『うたコン』の番組観覧に行けた。

わたしには、密やかにもう一つの目的があった。

母が自分で稼いだお金を自分のために使ってほしい。そんな願いだ。同じ主婦だからわかるのだけど、家族ができると家族全体のことを考えるから、「自分のためだけにお金を使うことに躊躇ためらいが生じる」。母は普段、孫にアイスを買ったり、足りない食費を年金から出したりして、自分のためにお金を使っていなかった。

わたしはその気持ちが痛いほどわかる。なぜか主婦って自分のためにはお金を使いづらい。家族のために自分が我慢することは一見美徳に見えるが、我慢が積み重なると爆発する恐れがある。一度、空気を抜くような感じで東京で買い物をし、母に人生を楽しんでもらいたかった。そのための非日常。『うたコン』へ行くことを理由に、自分のためにお金を使ってほしかった。

「すでに叶ったつもりで行動すると願い事が叶いやすくなる」。その実験は成功に終わり、身近な人がオシャレをしてウキウキでコンサートへ向かう様子は、わたし自身の癒しにもなった。

主婦だから我慢して当たり前ではなく、主婦だって自分のためにお金を使ったり楽しんだりしてもいいじゃないか。わたし自身ふだんは節約家なのだけど、創作大賞のベストレビュアー賞として授賞式に招かれたとき、やっと自分にお金を使ってもいいと許可を出せた。


授賞式に呼ばれたのだから美容院でインナーカラーを入れてみよう。授賞式に呼ばれたから、デコルテが見える黒のワンピースを着ていこうと。授賞式を盾に自分にお金を使えた。それはもう、とんでもない癒しだった。

旅行だっていい。二駅先のカフェに行ってみることだっていい。いつもとは違う人生のシーンをつくってみること。自分にお金を使う許可を出すこと。その変化はきっと、日常を続けていくためのエネルギーになるだろうから。

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神崎 さやか
秋には干し芋を買って、12月までに新しい手帳を買いたいです。