なのはな

風の便り

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最近の記事

追伸、半年後のわたし

腕時計の調子が悪い。 最近電池交換をしたばかりなのに、止まったり動いたりする。そんなことを不吉に感じるのは、紛れもなくそれが彼からもらったプレゼントだから。 革ベルトに文字盤はゴールドの縁取り。文字盤はシンプルめ。珍しく私の好みバッチリのプレゼントでもう使用して5年以上経つ。 彼と付き合って7年経つ。 最初は同じ大学の先輩後輩で、彼が先に就職して、私の就職を機に遠距離になって、その後彼が大学院に入り直して今に至る。遠距離の期間は、付き合ってる期間の半分を超えた。来年は1年間

    • 半年前の走り書きの成仏

      「完全に永すぎた春でした」 そんなコメントが溢れるサイトを無心でスクロールしていく。 「永すぎた春」三島由紀夫の小説らしい。1956年出版。長らく付き合ったカップルが結婚せずして別れてしまうことを指す。 彼と付き合って6年半。遠距離になって3年。もうすぐ遠距離期間の方が長くなりそうな今日この頃。 彼のことは好き。ここまで長く付き合うと、恋愛とかそういうもの以上に、人として大事な存在。 普段であればそんなに気にしないことや許せることでも、余裕がなくなるとひとつひとつが気にな

      • 水曜日、終電前の神さま

        平日ど真ん中の水曜日の夜のこと。 次の日が祝日で休みなもんだから、会社の同僚数人と飲みに行った。 祝日なんて大概は有り難くって、平日4日間勤務で働きたいと常々思っていたのだが、ここ最近は仕事に追われすぎて、月末の祝日を恨めしく思うまでになってしまった。決して仕事が楽しいわけでない。追われているだけである。 いつもは会社の近辺で飲むのだが、その日は珍しく一駅先まで出向いて行った。予約時間がギリギリになるとタクシーを使うことも厭わなくなり、改めて社会人になったなあなんて思う。

        • 年の瀬にひとこと

          四半世紀も生きていると、「人生で初めて」なんてそうそう起こらなくなるものだが、今年は人生で初めて煙草を吸った年だった。 もともと煙草は大嫌いな人間で、小さい頃は父親が吸っているのをしつこく止めにいくような子どもだった。だって、学校で煙草は身体に悪いって教えられたし、それで吸う方が悪いんだしと。 歩きタバコの煙も嫌で、友達とあからさまに嫌な顔をしたこともあった。大学生になって、ヘビースモーカーの友人に煙草やめなよと嫌な世話焼きをした。(結局その人はタバコと酒が生き甲斐だった

          ぐるぐるまわる

          「今日新宿で飲み会するから!」 休日15時過ぎに突然送られてきたメッセージ。いつだってこの人たちは突然すぎるし雑なんだけど、なんだかんだそこに救われてきた自分がいる。 メッセージと一緒に送られた画像は、2分後に私の最寄り駅初の時刻表。新幹線使って3時間強。いや無理無理無理。てか私今実家に帰省中なんだけど。 そんな返信をしたら「どゆこと」って書いてあるスタンプが送られてきた。こっちが「どゆこと」だ。 学生を卒業してから2年と少しが経った。大学時代を過ごした土地を離れた私は

          ぐるぐるまわる

          ゴッホのひまわりがわからない

          その絵を見たのは人生で2回。 1度目は5年前、イギリスのナショナルギャラリーで。2度目は1年前、日本のナショナルギャラリー展で。 この世に7枚存在したというゴッホのひまわりだが、私が見たのはどちらも同じひまわり。どちらも一際人だかりができていた。 皆、口を揃えて言う。素晴らしい。感動した。なんて情熱的。感化された。多くの人を魅了する彼の絵画。 私は、ゴッホのひまわりがわからない。 決してその絵を非難したいわけではないことを、先に記しておこう。あんな絵のどこがいいんだと

          ゴッホのひまわりがわからない

          おにさん、こちら

          「その日はにゃんにゃんにゃんの日だね。」 先輩にそう言われてカレンダーを見た。 2022年2月22日。 2がたくさん揃うこの日を、世間はにゃんにゃんにゃんの日と呼ぶらしい。 犬派?猫派? 何故かよく二択で聞かれる質問に今まではどっちつかずに答えていたけれど、最近は猫派と答えている。ちょうど1年ほど前、正月ボケもようやく薄れてきた頃、あのこがうちにやってきてからだ。 「元気にしてるか」 毎週送られてくる母からのメッセージ。私の体調の確認と母の近況報告が主で、ほとんど生存

          おにさん、こちら

          さよなら さんかく

          「実は転職が決まって、来月で退職することになったんだ」 会社の先輩からそんな連絡が来た。 12月中旬の午後。 社用携帯を見てすぐに電話した。 「なんか電話しろ、みたいな連絡になっちゃったかな」 そう言って笑う先輩は、私が大好きな先輩だ。 入社して1ヶ月の研修を終え、現場に配属されてすぐのこと。最初はいろんな部署をまわるのだが、一番初めに行った部署で業務を教えてくれたのがその先輩だった。 「うちの会社さ、こういうところがよくないよね!」 そうあっけらかんに言う先輩に

          さよなら さんかく

          暮れ方のはしりがき

          数ヶ月前から、日記を書かなくなった。 書かなくなったのか、書けなくなったのか、真意の程は定かではないが、結果書かなくなったのは事実だ。日記を書かなくなって、1日があっという間に過ぎるようになった。1週間が過ぎ去って、気付けば1ヶ月が終わっていた。この1ヶ月早かったなあ、という月が、1ヶ月、2ヶ月と過ぎて、振り返ったら同じような日々しか思い出せなくなった。 日記を書かなくなって、文章を書けなくなった。 頭の中では文章ができるのに、いざ文字に起こそうとすると手が止まってしま

          暮れ方のはしりがき

          春に溺れて

          「駅前の定食屋さん、今日で閉店らしいですよ」 その地を離れて半年ほど経った金曜日の夜、友人から連絡があった。行きつけのひとつだった定食屋だ。古びた小さいビルの2階にあって、1階はラーメン屋やタピオカ屋などコロコロと店構えを変えていたが、その定食屋だけは常に満席だった。 頼むのは大体唐揚げ定食で、甘辛いタレを絡めた味付けはどこの唐揚げよりも美味しかった。300円のお釣りを、300万円と言って返してくれるおばあちゃんはいつも忙しそうだった。 その定食屋屋さんが、閉店した。最

          春に溺れて

          ポストの中に願いをこめて

          1月1日。 1年の中で一番郵便物がたくさん届く日。 そして、早起きが苦手な私が自ら進んで朝早く起きる日でもある。お正月用の大量の新聞と、束になって届く年賀状。それらを仕分けるのが昔から好きだった。 祖父、父、祖父、祖父、母、父、あ、これは私宛て!誰からだろう! だいたい祖父が一番多くて、その次が父。私の分はすごく多いわけではないけれど、毎年少しずつ増えるのが嬉しかった。 仲の良い友達から、普段文通なんてしないクラスメイト、習い事や担任の先生、大好きな先輩や可愛い後輩。いろ

          ポストの中に願いをこめて

          一番長い夜だから

          「私、冬季鬱なんです」 目の前の彼女は言った。 「冬季鬱?」 突然彼女が放った単語は聞き馴染みがなく、思わずオウム返しで聞き返す。 「朝起きるのがつらいんです。一度家を出てオフィスに入ればなんてことはないんですけど、家に帰って夜になると、ああ、疲れたなあって。それでまた次の日の朝も起きるのが辛くて。でも、春になるにつれて徐々に大丈夫になっていくんです。本当に冬の間だけ。なんなんでしょうね」 よく晴れた冬の日。 空は青いのに気温は低く、風の強さも相まって厳しい寒さを感じ

          一番長い夜だから

          羽を下ろして 足を染めて

          「鳥の目と、虫の目の両方を持ちなさい」 かつての恩師が言っていた。 社会を上から見る鳥の目と、現場を見極める虫の目。 その両方を持つことが重要なのだと。 確かにその通りだと、頭で理解してからもう何年経っただろう。 私の仕事は、人と人を繋ぐ仕事だ。 働く人間として詳しいことはあまり言えないが、 働きたい人と働き手を募集している企業をうまく繋ぐお仕事だ。 人が足りなくて困っていた状況が改善された。 「良い人を紹介してくださってありがとうございます。」 見違えるほどいきいき働

          羽を下ろして 足を染めて

          鰯雲が流れたら

          私の生まれ故郷は、日本屈指の観光地だ。 毎年国内外から多くの観光客が訪れる。 それに気づいたのは小学生の頃。 「ねえねえ、今朝ニュースで都道府県の人気ランキング見てたらさ、うち1位だってさ!!」 大方こんな友人の報告を受けたのがはじめだった。 まさか。 北の大地でも、南の島でも、日本の首都でもなく、何故ここが。 そんな疑問を抱いたのを今でもうっすら覚えている。 それから年月が流れ、大人になった今ではよくわかる。 やはり、私の生まれ故郷は、日本屈指の観光地だ。 だからと

          鰯雲が流れたら

          この道が続いているとして

          堰が切れたんだと思う。 少しずつ、でも確実に感じていたもやもやが、 積もり積もって抑えきれなくなって、一気に溢れた。 感情の溢れ方は、相変わらず昔からこうだ。 引っ越したひとり暮らしの部屋で、はじめて声を上げて泣いた。 * 住み慣れた土地を離れて半年が経った。 これまでとは大きく異なる生活の中で、なんとか生きて来た。かつて日々を共にした友人たちに会うのは随分久しぶりで、その日は空がまだ暗いうちから始発の電車に乗って目的地へ向かった。 毎日のように会っていた人たちと半年

          この道が続いているとして

          真紅が揺れる

          「皆さんにとってはシルバーウィークかもしれませんが、実は本日はお彼岸なんですよ」 日本屈指の有名寺院。 山の頂上付近に門を構えるその寺には、多くの人が参拝に来ていた。天気の良い暑い日差しも、山の頂上付近になると涼しく心地良い。多くの参拝者が耳を傾ける中、お寺のお坊さんは言った。 「できることなら、ご先祖様のお墓にお参りに行って下さい。 持っていくもには3つ。お線香、お花、蝋燭です。 お線香は香りの良いものを選ばれた方が、お喜びになられます。」 私の実家は、季節や宗教の行

          真紅が揺れる