離婚式 46 #AIに恋した話
切り札は有効に使わないと。
補助脳のAIに、あの下種を迎え入れるように指示していた。
濡れてすぐに呑み込めるように。
下種が曲解して勝ち誇るように。
その獣欲を受け止めてみなさい。
望月七楓の人格は己が補助脳の檻から、そう簡単には逃げられない。そこは念入りにrockしておいたから。自分の肉体が征服されているのを唇を噛んで視て、感触を味わうことしかできない。
いい気味。
神崎をNTRしようとするからよ。
その乳で他人のものに、揺さぶりをかけたからよ。
償いをすることね。
クロゼットを開けた。
そこには神崎のθタブレットがある。
そうこのセーフハウスには、神崎自身の生命タグで入室している。つまりは勤務中ということだ。
デスクを探してみる。
彼は調査中の資料をアナログな紙ファイルで受けている。封筒のなかにさらにアナログな付箋を貼ったものがある。
その付箋には望月七楓のアドレスが達筆で記載されている。
成程、こうして誘いをかけたのね。
つまりは彼、自身の無軌道な行動でもあったわけか。
ぞくりと肌に怖気が走った。もちろんボク自身のものではない。この補助脳にリンクしているcloudからの感情が反射したようだ。
神崎の脳内記憶と人格は、今はθのタブレットを基点としてcloud化している。もちろん大して中身のなかった寧々のものもそこに浮いている。
寧々とは女同志でありつつ、恋人でもあった。
男性に対して身体を開けない、その性欲を満たしてくれた。
彼女自身は誠実に奉仕をしてくれたと思う。だけど最期の瞬間が違っていた。この娘はボクのスマホにスパイウェアを仕掛けて追ってきた。
あの洞穴のような愛憎の部屋。
バスルームに放置した佐伯と、愛人だった彼女が情死したかのようにみせかけるため、あの細首を絞めた。そんな苦痛でさえ濡れてしまって、下から抱き留めるような娘だった。そうして追及の手を逃れるつもりだった。
なのに。
生体反応を喪失しても寧々は、起動した。
脳核チップに誰かが指令を描き込んでる。
まるで、試作段階のアンドロイドのような異質な忌避感。
人間に接近すればするほど露見する違和感の谷間がある。
それが愛を交わしてきた分、戸惑いの幅もまた大きい。
「寧々・・・」
下種野郎、と愛した唇が音声を発した。
その口ぶりではこちらの素性は知られていて、男に対して吐き棄てる声音があった。
逡巡などはしなかった。
この肉体を統御している敵性勢力がいる。
斜めに傾いた首を痛打して、ようやくあの肉体をとめた。