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COLD BREW 18

 桜が風に煽られている。
 枝にしがみついている。
 離れたくない。
 ここに居たい。
 可憐な花弁がしがみついている。
 それでも春風は強情に吹き荒ぶ。
 離れたくない。
 でも楽になる。
 それでも嫌だ。
 花弁たちの懊悩が見えてくるようだ。
 
 私は絵筆をとってその前にいる。
 カンバスにも花弁が降り積もる。
 それを払うような無粋はしない。
 花弁たちは私の心でもあるのだ。

 引き剥がされる痛み。
 居場所を失う哀しみ。
 合鍵の向こうにある時間。
 自分で自由になれる空間。
 世界を初めて手にいれた。
 
 私も風に煽られたことがある。
 黒い背にしがみつき息をつく。
 タンデムで失踪するバイクで。
 ライダーは私の一部に近いわ。
 彼の一挙一同が、私には判る。

 遠心力に負けないように握る手に、力が籠る。
 進まないと倒れてしまう不合理な機械と思う。
 進まないと倒れてしまう人間も不条理と思う。
 
 不合理と不条理が、物理係数に従って疾走する。
 遠い心を繋ぐように。
 心に力を注ぐように。
 だから私は。
 彼との時間に、あの機械に乗ることを好んだ。
 不合理と不条理の、不安定の結束点を愛した。
 
 

 


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