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星々の屑
日輪が傾いて、海面が黄金色に輝いている。
あたしは冷めてしまった缶珈琲を右手に持って、砂浜を歩いている。スニーカーに伝わる感触は柔らかく、雲のうえを踏むようだ。
海風は冷たくて、スカートの中を駆け回って、ふいってそっぽを向いて逃げていく。失礼なだけで、悪気はないのね。
ああ。ボトムズの選択を誤ったな、そう考えている。
でも海辺に出る女は、膝丈くらいが可愛い。そう信じているだけだけど。だから調子に乗ってる北風で裾が乱されても、指で押さえたりは、しない。
そこは硝子の砂浜だった。
硝子を粒子状に砕いて、さらに細粉して護岸に敷き詰めたものだ。だからしゃがんで眺めると、夕陽を受けて極彩色に輝くの。だから恋愛してる人ばかり、互いの影すら重ねて、日没を見つめている。
あたしくらいじゃない、ここで独りは。
Kissがとても好きなひとだったな。
それになぜだか下唇を攻めるのね。
そういえばたずねたことがあった。
乳首みたいな感触があるんだって。
そうなのかな、と摘んではみたわ。
やだ、思い出したわ。
頭からたべられそうなKissだった。
指先で砂浜を掬ってみると、硬質な光を放っている。
でもそれは虚飾の色味にしか見えない。
もう自分を偽るのはやめにしないと。
踵を返して落日を背負う。すると足元から影が伸びている。それが一歩、一歩と歩いていく。
それでいいのよ、と声にも出ていた。
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