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濃密な霧のなかを泳ぐように駆け抜けた。 鈴鹿は、鬼か妖怪かが巣くう峠のようだ。 師走…
制動をかけて、CBを減速させる。 エンジンの鼓動が伝わってくる。 暗い闇を、ヘッドライ…
葱が刻まれる音がする。 リズムが安定している。 母の包丁がまな板を叩いているような正…
その窯は、山科の谷間にあった。 北京都のさらに奥座敷に位置していて、緩い山道を上った…
京都も盆地で底冷えがしていた。 ここまでは山裾を這うように国道9号線を南下して、亀岡…
娘さんが産気づいた、という連絡を受けた。 急遽、女将さんは一緒に産科に向うという。 …
喉を鳴らせて呑んでいる。 まだ一昨日に産まれたばかりで、足元も頼りない。 ばかりか哺乳瓶の乳首もちゃんと咥えてはいない。 顎を支えて口に含ませる手業を女将から教わった。 ミルクを欲しがる悲鳴のような声に、生への渇望を感じる。 一昨日の朝にこの仔は産れたばかりで、まだ呑むことに慣れていない。ミルクが喉に通らないのを地団太踏んで、むずがっている。 その民宿には桐乃婆の紹介で滞在していた。 女将と娘さんで営んでいる民宿だが、娘さんが臨月で大変なんだという。それも晩
渓流のせせらぎが聴こえる。 鏡町の奥津渓に踏み込んだ。 吉井川が両崖の雨滴を集めて、…
朧月が、ぽっかりと浮かんでいた。 美味しそうな蒸しパンの色味だわ。 もう風は冷たくて…
ひとりで参道を歩いてる。 津和野の太皷谷稲成神社。 江戸期の宿場町の空気を纏う市街を…
小京都と呼ばれる町がある。 日本の各地に点在している。 その一句をガイドブックで発見…
背中に視線を感じた。 かさりと芝生を踏む音もした。 「上手か~、ねえ、まだ何か吹けると…
左手には常に日向灘がある。 黒潮のうねりを眺めながら、湾岸線を下っていった。 潮風が…
眠るのは高原が格別に思う。 初秋の風が心地よく、髪を揺らせていた。 もう私の体臭にオイル臭がするのも日常。 そろそろカットに行きたいけれど、しっかりと温泉につかってしとやかな髪質にしないと。ヘルメットのせいで枝毛だらけだし、ちょっと恥ずかしいかな。 福岡県まで北上してきた。 途中で東京から1000㎞という看板を見たので、私の住いからもそのくらいの距離があるのだろう。けれどこの生活をひと月も続けたので、テントの内側の方が実家という気がする。 鍾乳石が草原から背を出