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二気筒と眠る

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かつて私は、旧い空冷のCBに乗っていた。二輪で旅をしていると自由になれるし、女ひとりのソロキャンプもそれなりに楽しい。 鼓動感のあるエンジン音を奏でながら、日常を振り切って旅は続…
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記事一覧

二気筒と眠る 22 終

 濃密な霧のなかを泳ぐように駆け抜けた。  鈴鹿は、鬼か妖怪かが巣くう峠のようだ。  師走…

百舌
2週間前
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二気筒と眠る 21

 制動をかけて、CBを減速させる。  エンジンの鼓動が伝わってくる。  暗い闇を、ヘッドライ…

百舌
1か月前
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二気筒と眠る 20

 葱が刻まれる音がする。  リズムが安定している。  母の包丁がまな板を叩いているような正…

百舌
2か月前
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二気筒と眠る 19

 その窯は、山科の谷間にあった。  北京都のさらに奥座敷に位置していて、緩い山道を上った…

百舌
2か月前
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二気筒と眠る 18

 京都も盆地で底冷えがしていた。  ここまでは山裾を這うように国道9号線を南下して、亀岡…

百舌
2か月前
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二気筒と眠る 17

 娘さんが産気づいた、という連絡を受けた。  急遽、女将さんは一緒に産科に向うという。  …

百舌
2か月前
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二気筒と眠る 16

 喉を鳴らせて呑んでいる。  まだ一昨日に産まれたばかりで、足元も頼りない。  ばかりか哺乳瓶の乳首もちゃんと咥えてはいない。  顎を支えて口に含ませる手業を女将から教わった。  ミルクを欲しがる悲鳴のような声に、生への渇望を感じる。  一昨日の朝にこの仔は産れたばかりで、まだ呑むことに慣れていない。ミルクが喉に通らないのを地団太踏んで、むずがっている。  その民宿には桐乃婆の紹介で滞在していた。  女将と娘さんで営んでいる民宿だが、娘さんが臨月で大変なんだという。それも晩

二気筒と眠る 15

 渓流のせせらぎが聴こえる。  鏡町の奥津渓に踏み込んだ。  吉井川が両崖の雨滴を集めて、…

百舌
3か月前
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二気筒と眠る 14

 朧月が、ぽっかりと浮かんでいた。  美味しそうな蒸しパンの色味だわ。  もう風は冷たくて…

百舌
3か月前
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ニ気筒と眠る 13

 ひとりで参道を歩いてる。  津和野の太皷谷稲成神社。  江戸期の宿場町の空気を纏う市街を…

百舌
3か月前
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二気筒と眠る 12

 小京都と呼ばれる町がある。  日本の各地に点在している。  その一句をガイドブックで発見…

百舌
3か月前
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二気筒と眠る 11

 背中に視線を感じた。  かさりと芝生を踏む音もした。 「上手か~、ねえ、まだ何か吹けると…

百舌
3か月前
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二気筒と眠る 10

 左手には常に日向灘がある。  黒潮のうねりを眺めながら、湾岸線を下っていった。  潮風が…

百舌
4か月前
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二気筒と眠る 9

 眠るのは高原が格別に思う。  初秋の風が心地よく、髪を揺らせていた。  もう私の体臭にオイル臭がするのも日常。  そろそろカットに行きたいけれど、しっかりと温泉につかってしとやかな髪質にしないと。ヘルメットのせいで枝毛だらけだし、ちょっと恥ずかしいかな。  福岡県まで北上してきた。  途中で東京から1000㎞という看板を見たので、私の住いからもそのくらいの距離があるのだろう。けれどこの生活をひと月も続けたので、テントの内側の方が実家という気がする。  鍾乳石が草原から背を出