ザッハーカフェ| あれから10年も
グラスが宙で絡まって、音を立てた。
硬質な響きは喧騒の中でも耳に通る。
「おめでとう」
「そうね、長かったわ。もう10年よ」
彼女の目尻には微細な皺があった。乾燥した空気のせいか、今日は雪の白肌の透明感が薄れている。それでも重たげに瞼を彩る睫毛が金色に輝いていた。
「いやだ、歳をとったな、って思ったでしょう」
「年輪を重ねるっていうんだ、日本ではね」
「そうね、なんだかそう言うと、時間が佳いものに聞こえる。それでも10年よ、あの学生さんがタリアをもう着こなして、ここにい