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恋愛掌話

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ふと気晴らしに恋愛小説を書いています。男性脳と女性脳を切り分けながら。どれもショートショートの短編なので、生活の息抜きにいかがでしょうか。
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記事一覧

空いっぱいの花畑

 カレンダーに付けられた、赤丸の日だ。  ぼくは目一杯にドレスアップして、待ち合わせの場…

百舌
3時間前
12

恋猫と |シロクマ文芸部

 特等席に陣取ったにゃ。  ここは人気のバーガースタンドという場所にゃ。  オープン席の脇…

百舌
8日前
26

入学式

 起立、の号令で我に返った。  慌てて席を立ち、一礼した。  目前には真新しい制服の背が居…

百舌
9日前
29

ブリュッセルワッフル 4

 翌日の晩餐は趣向が凝らされていた。  日中は頑丈な鎧戸で塞がれていて、看板も何も立って…

百舌
1か月前
17

ブリュッセルワッフル 3

 煉瓦壁の窓にスライド式窓がある。  窓辺のガラス瓶に花が活けてある。  ブルーベルという…

百舌
1か月前
18

ブリュッセルワッフル 2 

  困った、と硬い席についた。  正面には突き出た腹をブルーのリネンに包んだ老境の男が、…

百舌
1か月前
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剱岳でショコラバーを

 なにかの冗談かな、と思った。  梅雨の終わりを告げるような雨で、Caféで雨宿りをしていたときだった。  晴登は大振りのマグでラテを飲んでいて、映画に誘うような気軽さでいった。けれど真剣な面持ちだったので、さらに息を呑み込んだ。 「だってまだわたし、初心者みたいなものよ。剱だなんて」  富山湾からの季節風を屏風のように遮る立山連峰があって、その主峰を剱岳という。毎年のように登攀者の命を散らす山として、近寄りがたい存在だと思っていた。 「ふうん、初心者だってもう言えないよ。昨

ブリュッセルワッフル 1

 簡素なB・Bに宿泊していた。  床が石造りで壁は白く塗られていて、バスルームはシャワーの…

百舌
1か月前
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バナナブレッド #寒い日に

 淡い紫色が濃密になった。  もうすぐ日が昇るらしい。  新雪の雪灯りで、夜明け前なのに周…

百舌
1か月前
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アップルタルト #冬の香り

 乗り換えはザーンダムだった。  冬風の吹くホームに黄色の二階建て列車がしずしずと入って…

百舌
1か月前
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星々の屑

 日輪が傾いて、海面が黄金色に輝いている。  あたしは冷めてしまった缶珈琲を右手に持って…

百舌
1か月前
32

恋人はサンタクロース❤️

 たった4年前のことなんだけど。  クリスマス当日に私の家で女子会が開かれまして。  実は3…

百舌
1か月前
30

8年前のXmasイブイブ

 さて朝からFacebookからメモリーが。  呼び起こされましたよ〜あの機能です。  そうそう、…

百舌
1か月前
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ザッハーカフェ| あれから10年も

 グラスが宙で絡まって、音を立てた。  硬質な響きは喧騒の中でも耳に通る。 「おめでとう」 「そうね、長かったわ。もう10年よ」  彼女の目尻には微細な皺があった。乾燥した空気のせいか、今日は雪の白肌の透明感が薄れている。それでも重たげに瞼を彩る睫毛が金色に輝いていた。 「いやだ、歳をとったな、って思ったでしょう」 「年輪を重ねるっていうんだ、日本ではね」 「そうね、なんだかそう言うと、時間が佳いものに聞こえる。それでも10年よ、あの学生さんがタリアをもう着こなして、ここにい